浅野忠信×神木隆之介のコンビはなぜ最高だったのか 日本ドラマ史に名を刻んだ『刑事ゆがみ』

『刑事ゆがみ』浅野×神木はなぜ最高だったか

軽妙なやりとりの対極にある切ない物語

 ヒズミはいつも弓神に様々な果実を与えられる。そしてそれを夢中で食べて手や口元を汚し、まるで親が小さな子供にするように、弓神がそれを拭くというやりとりを繰り返す。それに対して、横島はヒズミにザクロを与えたと思いきや、そのザクロを握りつぶし、その果汁を彼女にかける。そして病院に運ばれたヒズミの傍に駆けつけた弓神は、真っ先にその果汁で汚れた首元を丁寧に拭く。それは、父親代わりのようにヒズミとともに過ごしてきた弓神と、本当の父親である横島の対比を描くのに十分すぎる描写であろう。

 果実は、瑞々しくもありどこかグロテスクな印象を持つ。声を失い、無邪気に弓神を慕うヒズミもまた、天使のような純粋さを持ちながら、「ゆがみ」と同系の「ヒズミ」という名前に示されるように、大きすぎる出生の秘密と、哀しく重い罪を負っている。

 ドラマを終盤まで引っ張る鍵となっていた「ロイコ事件」のロイコはカタツムリに寄生する寄生虫を示す。横島のゴーストライターだったヒズミの父親・武は、横島に妻を襲われ、娘は横島の子供ではないかという疑惑に囚われ、「俺は仕事も生活も全部ゴーストかよ」と激昂する。だが、本当にゴーストのように彼らの生活に忍び込み、寄生したのは横島のほうだった。そして彼は事件後、弓神によって死んだことにされ、生きながら本当の「ゴースト」にさせられることになる。

 もちろん、『刑事ゆがみ』は暗く切ない話ばかりではない。いつまでも笑っていられるような、弓神と羽生の軽妙なやりとりの対極に、切ない物語がある。そして、様々な思いと切なさを乗り越えて、また今までと変わらずニヤニヤと笑い合う弓神と羽生がいるのだ。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■リリース情報
『刑事ゆがみ』
Blu-ray BOX&DVD BOX 3月28日(水)発売
Blu-ray BOX:23,500円+税
DVD BOX:19,000円+税

出演:浅野忠信、神木隆之介、山本美月、仁科貴、橋本淳、稲森いずみほか
原作:井浦秀夫「刑事ゆがみ」(小学館「ビッグコミックオリジナル」連載中)
脚本:倉光泰子、大北はるか、藤井清美
プロデュース:藤野良太、高田雄貴
演出:西谷弘、加藤裕将、宮木正悟
発売元:フジテレビジョン
販売元:ポニーキャニオン
(c)フジテレビ(c)井浦秀夫/小学館
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/yugami/

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