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立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第25回

立川シネマシティ「ミュージカル劇場宣言!」の裏側 なぜ『リメンバー・ミー』と『デスペラード』を組み合わせた?

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 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第25回は“企画の魅力をちょいプラスする「ズラし」のテクニック”について。

 2ヶ月連続で「映画館の売り物とは?」「エンタテイメントとは何か?」という概念的な話を書きましたので、今回は実戦的な、僕が使っている企画のテクニックをご紹介させていただこうかと。

 好評な企画、うまくいった企画も、成功したからといって2度目3度目になると、魅力が減ってしまうのは避けられません。前回のコラム(参考:映画館にとってエンタテイメントとはなにか? 立川シネマシティ、効率化と真逆を行く戦略)でも書いたように、感動の源泉は“驚き”にあります。どんなにきらめく夜景も1時間も経てば見飽きるし、どんなかぐわしい香りだってすぐに鼻が慣れてしまいます。モノ自体ではなく、美しいと感じる脳の働きの中に“美しさ”はあります。だからどれほど素晴らしいものも、やがて“飽き”には耐えられず、だらしなくなっていきます。

 去年の春、たまたまミュージカル、音楽映画が立て続けに公開になりました。『ラ・ラ・ランド』『SING/シング』『モアナと伝説の海』『美女と野獣』といういずれも大ヒットが見込まれる作品が間を開けず公開された最高の好機をとらえ、ここにさらに5本の旧作をプラスして圧倒的なヴォリュームに仕立てた企画「ミュージカル劇場宣言!」を打ち出しました。(参考:映画館をミュージカル劇場に!? 立川シネマシティ『ラ・ラ・ランド』上映の挑戦」)そもそもの作品がヒットしたこともあって、この企画は大成功。このために新たに音響設備に大きく投資までした甲斐あって、旧作新作ともに驚くべき数字をあげることができました。

 それを踏まえて、今年の春もぜひ仕掛けたいと思っていたわけです。「ミュージカル劇場宣言!2018」。『グレイテスト・ショーマン』と『リメンバー・ミー』はずいぶん前に春の公開が決まっていましたので、まずはこれらは鉄板。しかし他をどうするか。直球の音楽作品が近辺に公開される予定はありません。旧作リバイバルで補強するにしても、新作2本じゃちょっと心許ない。

 今年はムリかなー、とあきらめムードのところに、彗星のように飛び込んできたのが『パシフィック・リム』のギレルモ・デル・トロ監督の新作、3月1日公開の『シェイプ・オブ・ウォーター』。祈るように一番最初の試写を拝見させてもらって、ガッツポーズ。やっぱこれ音楽映画じゃん!

 本作はいわゆる半魚人と大人の女性とのラブストーリー。耳は聞こえるものの、声を出すことができない女性と、もともと人間語は話せない謎の生物が心通わせるための手段は、音楽。簡単なあらすじだけ聞くとキワモノ作品のようですが、主要映画賞を受賞しまくり、米アカデミー賞でも最多ノミネートされているその理由はこれだったのか、と納得。予告編でも流れるジャズ歌手マデリン・ペローによるセルジュ・ゲンズブールの“La Javanaise”カバーを始め、古典的ミュージカル映画へのオマージュもあり、音楽要素はたっぷり。そもそもヒロインは古い映画館が入っている建物の上の部屋に住んでいるという設定。

 『ヘルボーイ』『パシフィック・リム』を成功させた“メキシコのガチオタ”にして、『パンズ・ラビリンス』『クリムゾン・ピーク』などのゴシックムードの叙情的なドラマの名手でもあるデル・トロ監督ならではのユニークなラブストーリーで、多様性排除の空気満ちる世情への警鐘という時代性も備えています。

 これで最低限の3本がそろいました。しかし喜んだのも束の間、スケジュールの過密から、前年のようにたくさん旧作を加えることはできないことがわかりました。これではパワーダウンは否めません。否めませんが、最大限の努力はすべきでしょう。

 まず旧作の本数確保が難しいということから、新作3本のそれぞれの関連作でまとめよう、と枠組みを決めました。スタートを切る『グレイテスト・ショーマン』には、歌曲を手がけた作曲家コンビが共通する『ラ・ラ・ランド』。これは誰もが思いつくいたって普通なチョイスですが、なにもかもひねればいいというものでもありません。もっと攻めの姿勢で、トッド・ブラウニング監督の『フリークス』を併せて観てもらうことで問題提起を行うというのは有意義なのではないか、というのも頭をよぎりましたが、シネコンがやるにしてはいろいろレベルが高すぎです。そもそもホラーだし。

 『シェイプ・オブ・ウォーター』には異種との恋愛という共通点で、これも安パイですが『美女と野獣』実写版に決めました。理由はディズニーは上映権の保持期間が短く、この機会が国内最終上映になりかねないということ、そしてスクリーンを超高級なものに張り替えたので、この美麗な画質でエマ・ワトソンちゃんをもう一度観たくて辛抱たまらんかったためです。

 さて、この関連旧作チョイスの冒険心のなさといったらどうでしょう。これまで清新な企画で売ってきた遠山も、ついに才能が尽きたなと非難されても言い訳のしようがありません。

 最後の『リメンバー・ミー』。ここに何をあてるか。例えば、監督のリー・アンクリッチに注目する。『トイ・ストーリー』シリーズ、『モンスターズ・インク』、『ファインディング・ニモ』。なんというまばゆいばかりの大傑作ぞろい。しかし、普通です。ならば、テーマ曲の作曲家つながりで『アナと雪の女王』が正解なのか? 否! これも普通じゃないか。

 誤解なきよう。型にハメることは、悪いことではありません。誰もが違和感を持たないラインナップでまとめれば、失敗することはないでしょう。前年の成功があるわけですし、人気作を選べば、喜ぶ方の数は多いはずです。ただ2回目の企画では、枠組みの魅力は避けがたく減耗しています。また今企画についてだけでなく「なにか面白いことをやってくれる映画館」というシネマシティ全体のブランドイメージにも影響します。

 そこで「ズラし」という技を使うわけです。

 音楽やファッションなら、当たり前に使う「ズラし」とか「ハズし」の工夫ですが、もちろん企画にもうまくすれば魅力をもたらします。

 『リメンバー・ミー』の内容に注目すれば、キーワードは“死者の日”“おばあちゃん(原題の“COCO”は曾祖母の名前)”“メキシコ”“ギター弾き”といったところ。こう並べていって、はっと胸をついたのは“メキシコ”+“ギター弾き”という2つのワード。これ30代後半以上のとりわけ男性映画ファンなら間髪入れずイコール“マリアッチ”という解が導き出されるはず。

 そう、あのジョン・ウー作品からの影響を恥ずかしげもなく表明し(パクり、とも言う)、バカすぎてカッコいい武器、エロいおねえちゃんなど、ボンクラ度を爆上げして傑作に昇華させた復讐アクション『デスペラード』! ちゃんと主演アントニオ・バンデラスも歌うし。これしかない。誰がなんと言おうと。

 しかし実現は難しいだろう……と思ってたのですが、あっさり快諾していただけるという僥倖。ソニー・ピクチャーズ様は最高だよ! みんな応援しよう。

 予定調和からの脱却。これでこの企画は一気にまとまりを失い、引き換えにきらめく何かを獲得することができました。

 真面目な話に戻すと、“ズラし”は企画に新奇性をもたらすことと、別の要素を入れ込むことで興味を持ってもらえる方を増やす効果も狙えます。異質な作品、枠組みで目を惹き、告知ページを開くことすらなかったはずの方に他作品をアピールできる可能性があります。

 気をつけるべきは、ズラしすぎないこと。ごく一部を、しかし大胆にズラすのが最も効果的です。それはファッションでも、お笑いでも共通のことです。

 正直『デスペラード』で大きく集客するのは難しいでしょう。もっと確実に稼げる作品を選択するのが正しいのかも知れません。ただこんなことでもないと、この作品を公開から23年が過ぎた今、スクリーンで観ることは叶わないでしょう。でもこの作品がいまだ多くの人に愛され続けているのは確かです。

 シネマシティならどちらを取るべきか。それはいまや明らかです。私たちは心意気にお金を支払っていただくのです。悪い冗談を思いつくだけでなく、本当に実行してしまうことで信頼を築くのです。

立川シネマシティ「ミュージカル劇場宣言!2018」

 キレイで安全とわかっている道だけを歩いていては、驚きには出会えません。企画はエンタテイメント。誰かに楽しんでもらいたいならば、他人のはもちろん、かつて自分がつけた足跡すらも、避けて歩かなければ。そう自らを戒めて、妥協心を潰します。

 You ain’t heard nothin’ yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

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