町田啓太、どんな色にも染まるプレーンな魅力 『女子的生活』での“単純”を担った演技を読む

町田啓太、どんな色にも染まるプレーンな魅力

 1月26日に最終回を迎えた『女子的生活』(NHK総合)は、ファストファッション会社でOLをしながら女子的な生活を満喫している小川みき(志尊淳)のもとに、借金(実は自分のものではなく元カノの借金だったのだが)に追われて元同級生の後藤忠臣(町田啓太)がやってきたことから始まる。

 この町田啓太のキャラクターが、ドラマのバランスを良い方向に保っていたように思えた。これまでの町田と言えば、仲間由紀恵演じるマネージャーに見いだされ俳優を目指す青年を演じた『美女と男子』(NHK総合)では、やる気がなくぶっきらぼうな役柄を演じていたし、映画『HiGH&LOW』シリーズでは、仲間一の秀才ながらも、一度は九龍に飲み込まれてしまうノボル役を演じていた。どんな方向にもいけるいい意味でのプレーンな魅力が持ち味だが、この作品ではそれがより生かされていたように思える。ドラマの中でも、「なんていうか、これ以上ないくらい普通」と評されていた。

 1話で捨てられた犬のように家の前の暗がりで小さくなっている後藤の姿は、「ひょんな同居」から始まる『君はペット』も思い起こさせる。家の中に入れてもらった後藤が、目をキョロキョロさせながらみきの作ったコロッケドックを食べる姿が、彼の性質を端的に説明している。みきはその後、仕方なく行く当てのない後藤をとりあえず泊めてあげるのだが、多くの「ひょんな同居」ものラブコメディのようにはいかないのがこのドラマの面白いところだ。

 みきは女の子になって女の子とカップルになりたい子で、多くの「ひょんな同居」(かつての『ロング・バケーション』や『イタズラなKiss』のような)のふたりのような関係性にはならない。後藤は興味からみきにぶしつけな質問を投げかけるし、それどころか「俺もしかしてヤバい感じなのかな……美人だと思って……」とみきへの関心を口にし、みきから食い気味に「私は綺麗な女の子が好きなの。靴のかかと踏みつぶしてるような男は、触りたくもない」とはっきりと言われてしまう。実際、後藤は、みきの家のトイレを詰まらせたりするような男なのだ。

 しかし、後藤を見ていると、徐々に「いいやつ」であることがわかってくる。後藤はなんでも好奇心から質問をするけれど、それが人を傷つけることであったら、すぐに修正するし、知らないことをどんどん吸収していく良さもある。みきに言わせると「ただのおバカ男子」だけど「優しい」性質なのだ。もちろん「ただのおバカ男子」の魅力と弊害は、みきの友人で同じくトランスジェンダーで男を愛する友人・ともちゃん(西原さつき)の口から語られるし、世の中には後藤のような「単純」な男を愛する人もいれば、みきのように「複雑」に女の子を愛する人がいることも示される。

 みきや、ともちゃんもそうであるが、このドラマでは、誰もがそこはかとない「中ぶらりん」な不安を抱えながら生きている。みきは、このまま自分が女子で居続けられるのかわからないから、好きになった女子と一緒にいても、一瞬のきらめきを楽しむほかない。みき以外にも、2話に登場するニートで拗ねてしまった同級生のミニーさん(中島広稀)、3話に登場する地方で毒親と暮らすテキスタイルデザイナー、それにみきの親友のかおり(玉井詩織)も、みんなそこはかとない不安を抱きながら生きている。みきとかおりの会話から、彼女らの不安の根源は、「人としてまっとうな生き方」を誰かが決めて、それを誰かが押し付けていることだとわかる。

 それに対して後藤は、漠然とした不安すら感じていない(自分探しこそしてみようとするが……)。このドラマの中で「単純」という言葉は、人に普通や自然、誰かの決めた「まっとうな生き方」を押し付ける人という意味も持っているのだが、後藤の単純はそれともどこか違っている。もちろん、後藤にも最初はそんな悪い意味での単純さもあったのだが、みきと出会ったことで、人としては単純でも、人に対しては単純な価値観を押し付けることはなくなっていく。そして、元来の彼の単純さは、複雑に生きるしかない(それだけぶしつけな視線に常にさらされているということでもある)みきの気持ちを楽にさせるようなところがあるように思えた。

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