2017年ドラマ評論家座談会【前編】 『ひよっこ』『カルテット』『過保護のカホコ』各局の話題作を振り返る
佐藤「多くの視聴者は恋愛よりも、家庭や社会に悩んでいる」
佐藤:今期のドラマは特に、恋愛ドラマが少なかったと感じています。多くの視聴者は恋愛よりも、家庭や社会における問題に悩んでいて、そうした風潮がドラマにも反映されていたのかなと。『逃げ恥』には“呪縛”というキーワードがありましたが、昨今では恋愛をする以前の問題として、自分のことをちゃんと肯定して愛する余裕がないのかもしれません。
成馬:そういう視点に立ってドラマを作ろうとすると、男性が主人公の敵になっちゃうんですよね。トレンディドラマの時代から考えると、すごいところまで来てしまったと思います。『監獄のお姫さま』にせよ、『奥様は、取り扱い注意』にせよ、敵は男性だった。しかも、優しく理解のある夫こそが最大の抑圧者だったという物語で、とてもシリアスです。
西森:そうですね。でも無理矢理なハッピーエンドを見せられるのが一番辛いから、ちゃんとリアリティのある結末を描いて欲しいとも思っていて。それが悲しい結末だとしても、納得できるし癒されるんです。逆に女性の妄想はこうなんだろうと浅いマーケティングで描いたようなファンタジーを見せられると、「そういうことではない」と萎えてしまいます。
成馬:西森さんが信じられなくなっているのは恐らく、対立の果てに和解がある、みたいな物語なんでしょうね。逆に、最初からみんな楽しく過ごしていて、波風が起きないコミュニティを描いた作品には癒される。
西森:なんですかね、対立の果てに和解があるものも好きなんですが、そのときの現実の描き方と、和解の方法が急場しのぎに見えないかによるんじゃないですか。『明日の約束』とか、映画ですけど『ビジランテ』見ても思ったんですけど、現実世界のリアリティが強ければ強いほど、最後だけ大団円というのが難しくなると思うんです。『架空OL日記』はすごくこまごました現実にはリアリティがあるんですが、どこか「架空」なので癒されるんですよ。逆にファンタジックな作品でも、物語をハッピーエンドに収束するために、キャラクターが都合よく動かされていると感じると、ちょっとつらくなりますね。現実のキャラクターはそんなに都合よくは動かないと思ってしまうんです。
佐藤:人は、そう簡単に変わらないですからね。だから、どうしていくか、というのを一緒に考えていけるドラマが愛されているように思います。
成馬:それは1クールのドラマの限界を示してもいますよね。短い期間で人物の変化を描くと、どうしても急変した感じがしてしまう。その一方で、朝ドラは半年間、大河は1年間続くから、人物の細かな変化を丁寧に描くことができる。『相棒』や『ドクターX』みたいなシリーズものもそうです。しかも、そうした長いドラマは安定して高い人気があります。
佐藤:その辺の長編作品は、キャラクターがブレなくて安心感がありますね。長く続くことで、世界観がより確立して、どこかに別の世界でそのキャラクターたちが生きているような感覚になります。
成馬:今は現実の方が何でも起こりうるから、フィクションの世界では、「誰も傷つかない優しい世界」が求められているのかもしれませんね。地震は起こるし、いつミサイルが飛んでくるかもわからない世の中だからこそ、フィクションの世界では「変わらない日常」に浸って安心したいというか。『ひよっこ』放送中に、Jアラートで2回中止になったことがあったじゃないですか。あの時はまさに「現実vs虚構」という感じで、現実の方が虚構の世界よりも、波乱万丈で何でもありになってきてるんだ、と感じました。