2017年ドラマ評論家座談会【前編】 『ひよっこ』『カルテット』『過保護のカホコ』各局の話題作を振り返る

佐藤「『カルテット』や『監獄のお姫さま』は万人受けを狙わなかった」

佐藤:火曜ドラマの『カルテット』や『監獄のお姫さま』は、優しいドラマでしたよね。ただ、好きな人とそうでもない人に、割とはっきり分かれたイメージがあります。もしかしたら、作り手側に「わかる人にだけ届けばいい」という思いがあったんじゃないかな、と。万人受けを狙って誰にも刺さらないドラマよりも、少数でもしっかりメッセージが届くような作品がつくりたかったのではないかと感じました。

西森:あの枠は、作家性が強い人が書くときと少女漫画原作のときがあって、作風にも大きな差がありました。それが交互にやってくるようなイメージで、意外とブランドイメージは一定ではない。

成馬:去年の『逃げ恥』は、少女漫画原作の親しみやすさがありながら脚本家の作家性も活きていて、偶然だと思うけれど両面の良さが出ていましたね。、『ダメな私に恋してください』が受けたことで、TBSではあまりやってなかった少女漫画原作のラブコメ風の路線を押し進めていこうと考えて、現在の路線になっていったようです。主人公が女性で、イケメンドラマっぽい作りで、でもちゃんと社会性があるドラマという方向性ですね。『カルテット』と『監獄のお姫さま』は、以前から温められていた企画が、たまたまこの時期で放送することになったようで、むしろこの枠では異色作だった。一昔前なら『カルテット』のような作家性の強い作品は金曜ドラマでも良かったのかもしれないけれど、裏にはジブリとかを流す『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ)などがあって、次第に弱体化していった枠なので、自然と作家性の強い作品も火曜ドラマに流れているのではないかと。個人的には今の金曜ドラマも良いですけれどね。『リバース』や『ハロー張りネズミ』はすごく楽しめた。

佐藤:『リバース』や『ハロー張りネズミ』は脇を固めたジャニーズのみなさんの活躍も良かったと思います。“ジャニーズ主演ドラマ=アイドルドラマ”と、先入観を抱かれることが多いように感じていたので。その点、脇役で良い味を出す方が増えてきているのは今後が楽しみになりました。『リバース』でKis-My-Ft2の玉森裕太さんの演技の評価も上がったように思います。

成馬:去年に引き続き、TBSのドラマは全体的に調子が良かったですね。

西森「『過保護のカホコ』はよく考えてみると怖い話でもある」

佐藤:日テレだと今年は水曜ドラマ『過保護のカホコ』がヒットしました。

成馬:脚本家の遊川和彦さんのヒット作は、なんだかんだで日テレ水曜ドラマ枠から出ていますよね。『家政婦のミタ』もそうでした。『女王の教室』は土曜ドラマ枠でしたけれど。

西森:『過保護のカホコ』は女性をターゲットにした水曜ドラマ枠のテイストと、遊川さんの作家性がマッチした良作で、後になって考えるほど、よくできた作品だったと思います。おとぎ話のようなファンタジックな作風ながら、よくよく考えてみると怖い話でもあって。『明日の約束』で主人公が母親に日記を付けさせられていたけれど、母親が娘を愛情で縛り付ける怖さは、『過保護のカホコ』と共通していますよね。

成馬:いわゆる“毒親もの”ですね。たぶん、この問題を今年最初にテーマとして取り上げたドラマは、2017年1月から放送された『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)ですね。母親役を務めた斉藤由貴の怪演がすさまじくて、精密に作り込んだ物語や設定の面白さを、役者の演技が更に超えていく迫力に圧倒されました。。異常に仲の良い母娘の間にある歪んだ愛情って、すごく現代的なテーマだと思うんですけれど、『お母さん、娘をやめていいですか?』以降もこうした作品が続いているところを見ると、やはり何かしらの社会的な歪みがそこに見て取れるのかなと思います。

西森:毒親については、心理学者の信田さよ子さんという方が2008年に著した『母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き』などの書籍が比較的早い段階で世に出ていて、その後、漫画家の田房永子さんが2012年に描いた『母がしんどい』などで私も知ることになりました。当時は多くの人にとって「そういうことがあるのか」という認識から始まって、今やテレビドラマで奥深い物語が展開されるくらい共有されている問題になったということでしょうね。

成馬:『お母さん、娘をやめていいですか』は、正直なところ、男性目線で見るとよくわからないところがたくさんあったんです。ただ、SNSのつぶやきを見ていると、女性の視聴者がかなり過激な反応を示していて、普段は朝ドラを見て穏当なつぶやきをしている人まで、客観性をすっかり失っていたんです。特に、最後に母と娘の和解が描かれたことに対しては、「こんなに簡単なことじゃない!」という怒りの声が多くて。

西森:そこは本当に大事なポイントですね。『明日の約束』の場合は、最終的に母親が理解できない存在のままで終わっていて、そこが一番評価できると思いました。私が最近のドラマを観ていて嫌な気分になるのは、無理矢理にハッピーエンドにしようとしているのが見えたときで、多くの視聴者もそういう作為性に対して敏感になっているような気がします。物語を終わらせるために、登場人物みんなが改心するということを信じられませんからね。母親が急に考えを変えられる現実はあまりないので、無理やり変わらないほうが、視聴者に対しても真摯だなと思えるんです。それと同時に、母親の抑圧はつらいけれど「嫌い」なののではないとか、そういうことも、すごく丁寧に描かれていると思いました。

佐藤:もしかしたら晩婚化が進んでいる分、昔に比べて親子で過ごしている時間も長くなっているのではないでしょうか。また結婚をしても、里帰り出産をする方が増えるなど、かつてのライフスタイルよりも女性の母親の影響力が増しているのかもしれません。母親の意見との食い違いを感じながらも、自分らしさを貫こうと日々奮闘している女性たちへのエールかな、と。

成馬:斉藤由貴が演じているお母さんは、「恋愛するな」とか、「仕事するな」というような相手を束縛するようなことは基本的には言わないで、むしろ応援してるようにすら見えるんですよ。でも「結婚してもいっしょに住みましょう」という感じで、娘が自分のテリトリーから出ていくことに対してはいつも否定的な感情を持っている。一見、とても寛大なんだけれど、それが最大の抑圧になっているという構造があって、そこに恐怖を感じます。

西森:昔のドラマでもそういうお母さんはいっぱいいたんだけど、それは愛情だからって美談にされてきたんですよね。だから、今見ると「これ毒親じゃん!」って思うことが結構あって。Me tooの問題もそうだけれど、昔は気付かなかったことに、最近はすごく気付く時代になったのかなと思います。

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