今期、もっとも観るべきドラマは? ドラマ評論家が選ぶ、秋ドラマの注目作ベスト5
10月23日から放送開始する『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』(フジテレビ)で、今シーズンのテレビドラマはほぼ出揃う。各局、力の入った作品が並ぶが、本当に観るべきはどのドラマだろうか。ドラマ評論家の成馬零一氏に、秋ドラマから注目すべきタイトルのベスト5を選んでもらった。
1.ユニバーサル広告社(テレビ東京)
テレビ東京の金曜夜8時枠という『釣りバカ日誌』などを放送している今のテレビドラマの中ではかなり辺境のドラマ枠の作品なのだが、そこで人気脚本家の岡田惠和が書くとどうなるのだろうか? と思っていたが、予想外に面白かった。
沢村一樹、和久井映見、三宅裕司、やついちろうといった、つい最近まで、岡田が手がけていた連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)に出演していた俳優が出ているため、『ひよっこ』の現代編を見ているかのようだ。よくこんなキャスティングをしたなぁと感心する。広告の力で寂れた商店街を立て直すという話は極めて現代的で、どう展開するのか続きが楽しみだが、パワハラ、セクハラ発言をすると社員にご飯を奢らないといけないというような、現代的なディテールの方が面白い。
2.奥様は、取扱注意(日本テレビ)
在日コリアンの若者の青春を描いた『GO』で直木賞を受賞し、『SP』や『CRISIS』(フジテレビ系)などといったポリティカルな要素が強いアクションモノに定評のある金城一紀の最新作なのだが、綾瀬はるか主演のドラマを水10でやると知った時は、このミスマッチ感がどういう方向に向かうのかと、期待半分、不安半分だった。しかし、話数が進むにつれてどんどん面白くなっている。かつて某国の工作員(時節柄、どうしても北朝鮮を連想してしまう)だった主婦が、女を苦しめるDV男をアクション(暴力)でやっつける。という第一話をみた時は、ちょっと安易すぎるんじゃないかと思ったが、話が進むにつれて、今の日本社会の根底にある男尊女卑的な社会構造の中で苦しめられている女性の苦しみを掘り下げている。
特にママ友いじめを通して女VS女を描くと見せて、実はどっちも被害者だったという結論を見せた3話は秀逸だった。
ベースにあるのが弱者の連帯ではなく、強者の孤独なのが見ていて気持ちがいい。 今までとは違うステージに降りてきた金城にとっての新境地となりそうだ。
3.監獄のお姫さま(TBS)
脚本の宮藤官九郎を中心に、金子文紀ら『木更津キャッツアイ』などでドラマシーンを塗り替えたクドカンドラマのスタッフが再結集して今一番勢いのある火10で書くということで、本来ならベスト1に推しても良いのだが、評価はまだ保留という感じ。作品がパズル的に作られていて、一話を見ただけだとよくわからないところが多かった。こういう大胆な構成が許されているのはクドカンブランドに対する信頼があるからだろう。おそらく、全話見終わらないことには物語の全貌がはっきりしないのではないかと思う。
子どもの誘拐事件に端を発して、ある事件の真相がわかっていき、そこで中年女性を中心としたチームと男の戦いが描かれるという展開は黒澤明の映画『天国と地獄』と市川崑の映画『黒い十の女』を足して2で割ったような展開だが、最終的な評価は、2話以降明かされる、犯罪を決行した中年女性たちの物語と伊勢谷友介が演じる社長を通して男社会の闇が描けるかどうかだろう。女同士の共同体が、悪い男を懲らしめるというドラマ構造が『奥様は、取り扱い注意』と同じで、どちらもポップに描こうとしているだけに、比較しながら見ると面白いのではないかと思う。