『ナラタージュ』小川真司Pインタビュー 「この映画が当たれば、文芸作品の需要が増えるかも」

『ナラタージュ』小川真司Pインタビュー

 2006年版「この恋愛小説がすごい」第1位に輝いた島本理生の同名小説を、『世界の中心で、愛をさけぶ』『ピンクとグレー』の行定勲監督が映画化した『ナラタージュ』が現在公開中だ。高校教師と生徒として出会った2人が、時が経ち再会した後、決して許されはしないが一生に一度しか巡り会えない究極の恋に落ちる模様を描く。

 リアルサウンド映画部では、同作のプロデューサーを担当した小川真司氏にインタビュー。キャスティングが決まった経緯や原作との変更点などのほか、今本作を公開する意義についてまで、プロデューサーならではの視点から語ってもらった。聞き手はドラマ評論家の成馬零一氏。

『ナラタージュ』ができるまで


――『ナラタージュ』は、行定勲監督が長年温めていた企画だったそうですね。

小川:行定監督とは『ひまわり』の頃からの知り合いでした。今までお仕事をする機会はなかったのですが、『ピンクとグレー』ではじめて一緒に仕事をしまして、その時に『ナラタージュ』のプロデューサーを頼まれました。その時点で脚本があったので読ませていただいて、だいたい今と同じなんですが、フランス映画っぽいこじんまりとした良い話になっていて。行定監督が最初にやろうとしていた作品世界のままだと、たしかにお金が集まらないだろうなぁと、感じました。

 行定監督が過去に持ち込みをした時は、最後に恋人が死ぬような映画が流行っていた時期で「誰も死なない話だから難しい」みたいに言われたらしいんですよ。それもわかるんですよね。ストーリーラインだけで売ろうとすると、明快な事件が起こらない展開で難しい作品だったので。

 それで、色々悩んで原作を読んだら、三角関係の構図がしっかりあるし、先生と生徒の恋愛っていう点もキャッチーだったので、これは逆に映画の規模を大きくした方が、チャンスがあるんじゃないかと思いました。つまり、ミニシアター系の小規模な映画として作るのではなく、スケール感を大きくしたメジャー映画として作るということです。その話を行定監督にして、そこから脚本の堀泉杏さんと監督と三人で本直しを進めていきました。

――松本潤さんが葉山先生を演じることになった経緯について教えてください。

小川:ラブストーリーって、90%ぐらいはキャスティングで決まっちゃうんですよ。特に『ナラタージュ』は葉山先生が核なので、誰が演じるかによって、作品イメージ=パッケージが決まってしまう。そのイメージで興行的な規模感も決まってくる。では、誰だったら成立するのかと考えた時に『陽だまりの彼女』でご一緒した松本くんがいいんじゃないかと思いました。行定監督が松本くんとは個人的に会ったことがあるという話も聞いていましたので、脚本の打ち合わせをしている時に監督に相談しました。そしたら脚本の堀泉さんも、すごいいいって言ってくれて。

――『ナラタージュ』が映像化された時に葉山先生を誰が演じるのかは、まったく想像がつかなかったです。

小川:監督も10年くらい試行錯誤されていたのですが、やっぱり松本くんがベストでしたね。

――今までとは違う役柄ですが、何か確信があったという感じでしょうか。

小川:30歳を過ぎた今の松本くんなら演じられると思いました。この作品で松本くんの違う一面を見せられるんじゃないかと。こういう作品なのでオファーをするのが心配でしたが、僕は一度、松本くんと仕事しているし、行定監督も『ピンクとグレー』でジャニーズさんと仕事をしていて、大ヒットしているタイミングだったので、ちゃんとお話も聞いていただいて。ただ、やっぱり一度本人と話してくれっていう話になりまして(笑)。僕と監督と本人とお会いして『ナラタージュ』の内容についての話をしました。

――今まで松本さんが演じてきた役とは真逆でしたね。

小川:葉山の内面が脚本に描かれてないじゃないですか。だから「葉山のことがわからない。どうすればいいのか」っていうことを監督と話したいと言われました。特にヒロインの工藤泉から葉山がどう見えているのかについて、監督に聞いてました。自分がどう見えるかよりも映画の中の葉山がどう見えるかっていうことを気にしていたのが、ちゃんとした役者ですよね。

――役をつかむのに苦労していたようですか?

小川:そうでもなかったと思います。自分なりにどう演じるのかが決まるまでは、監督や僕と何度も話し合いましたが、インしてからは、自分の作り上げた葉山を演じていました。衣装も含めたビジュアルが決まった時にこういう人かっていうのはできたんだと思います。芝居の“間”も、すごいゆっくりで、それは多分松本くんがそういう風に葉山を作ってきたからあの“間”になって、尺が長くなったのかなと。

――2時間超えですね。

小川:本当はもっと短くしたかったんですけど。台本通りに芝居をつないだ1回目のラッシュが3時間近くあったんです。

――脚本にあったものを、どんどん削ぎ落としていったのかと思いました。

小川:撮ったけど使ってないシーンは、いっぱいありますね。

――有村架純さんが工藤泉役に決まった経緯は?

小川:有村さんはもともと行定監督の作品に出たいというお話が、事務所のマネージャーの方から行定さんに行っていたらしくて。その話もあって、やっぱり有村さんがいいよねっていう話になりました。

――撮影は『ひよっこ』の前でしょうか。顔つきが全然違うので驚きました。

小川:撮影の順序でいうと『ナラタージュ』、『関ヶ原』、『ひよっこ』の順番です。

――小野くんを演じた坂口健太郎さんも素晴らしかったです。

小川:坂口くんは結構前から気になる俳優でして、メンズノンノのモデルやってトライストーンに入った直後ぐらいですかね、オーディションで会っていて。「いいな、いいな」と思っていたら、あっという間に売れてきて。マネージャーさんに話をしたらやりたいって言って頂いたので、割とすんなり決まりましたね。

――靴のエピソードはオリジナルですよね。

小川:僕が読んだ脚本の中にはもうあったかな。多分、堀泉さんと監督のアイデアじゃないですかね。具体的にどんな経緯かは聞いてないのですが、ただ小野くんに何か特徴をつけないと面白くないっていうのは当時あったと思うので。

――泉と小野くんが別れる場面は小説の段階でもかなり壮絶だったのに、靴のエピソードが加わったことで倍増していると思いました。

小川:そうそう。あのダメさ加減がね。本当に。

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