『ナラタージュ』小川真司Pインタビュー 「この映画が当たれば、文芸作品の需要が増えるかも」

『ナラタージュ』小川真司Pインタビュー

小説の映像化について


――靴の話もそうですが、原作どおりに見えて細かいところを変えていたのが面白かったです。

小川:監督は小説を映画化することに長けているところがあって、『ナラタージュ』の場合はイメージがある程度、監督の中にあったと思うんですね。僕が提案して大きく変わったのは富山ロケになったことですね。先程のスケール感の話とも絡んでくるのですが、この話を東京や都市部周辺でロケをしたとしても非日常感とかノスタルジックな感じを出せないと思ったんです。

――富山が舞台に選ばれた理由を教えてください。

小川:一つは市電があるということですね。ラストに電車での別れのシーンがあるので。松本さんがスケジュールの都合で行ったりきたりしなければならなかったので新幹線が通っているところを直感で選んだのですが、大正解でした。高岡が昭和の雰囲気がすごくある街で、少し時代から取り残されている感じがあるのですが、それがよかったです。映画全体のルックとしてノスタルジックなものにしたかったので、都会の日常と離れた場所で撮りたいと思いました。

――たしかにノスタルジックな映画ですね。

小川:僕の頭にあったのは、『ライアンの娘』というデヴィッド・リーンの映画です。3時間ぐらいのラブストーリーで、少女が先生に恋をして結婚するんだけど飽き足りなくなって軍人と不倫をしてしまうという話です。イギリスのアイルランド側の海岸線が舞台で、ものすごいワイドスクリーンで自然の風景を撮っているんです。小さい話でも、大自然の中に置いた時にスケール感が出て、映画で見る必然性が生まれると思いました。

――時代背景についてはどのように考えていましたか? 小説が発表された時期は2005年で、今撮るとなると12年のタイムラグがありますが。

小川:やっぱり10年ぐらい前の感覚ですよね。携帯電話がまだスマホじゃないとか。近い過去の空気感を出す時に一番大きいのはスマホがあるかないかですよね。その辺りは意識しました。コミュニケーションのあり方が少し変わってきているので。

――2000年代って、懐かしいのか懐かしくないのかよくわからない距離感ですね。

小川:そうですね。行定さんとは『ナラタージュ』のあとに『リバーズ・エッジ』を撮ったのですが、あれは原作漫画の通り90年代の舞台設定でやりました。厳密にやり始めると美術とか大変なので、もう少しフワッとした90年代ですが。スマホがない世界、携帯もみんな持ってない世界っていう設定です。

――小野くんが泉の携帯の略歴に葉山先生の名前があるのを見て怒るというのは、あの時代ぐらいから出てきた感覚ですよね。当時、小説を読んだ時は、そういうディテールがリアルだなぁと思いました。

小川:そうですね。スマホがある時代だとLINEとかになっちゃうので、作劇が変わってきますからね。

――ものすごくクラシカルな映画だと思いました。フランソワ・トリュフォーや成瀬巳喜男の映画が劇中で登場しますが、古典的な恋愛映画を作ろうと思っていたのですか?

小川:50年後に見ても、そんなに今とは変わらない感覚で見られるような普遍的な作品を目指しました。昔の日本映画ってアクション映画やコメディ映画と並んで、マネーメイキングスターが主演する巨匠の文芸映画が1年に1本作られていて、芸術祭に参加するような作品を小津(安二郎)さんや成瀬(巳喜男)さんが1年に1本ぐらい撮っていたわけです。最近そういう映画はあんまりないなぁと思って。

――構えの大きな文芸映画を作ろうと思ったということですか?

小川:文学作品って製作委員会方式だとお金を集めにくいジャンルです。マネーメイキングスターをキャスティングしないと、そもそも成立しないんですよね。嵐の松本くんは、日本でトップのマネーメイキングスターなわけであって。そのイメージで作って、その結果として作品が当たれば、もう少し文芸作品の需要も増えるんじゃないかと。そこはチャレンジですよね。だから業界の人からは、当たって欲しいと言われます。朝日新聞で、映画評論家の森直人さんも当たって欲しいと書いていましたし、犬童(一心)監督も当たって欲しいみたいな話をしていました。

――かつて存在した日本映画の伝統を引き継ぎたいという意識はありましたか?

小川:そこまで気負っていませんでしたが、僕らが見て影響されてきた映画に少しでも近づきたいっていう意識はありますね。結果としてそれがまた僕らより下の世代の方が見て、大事にして頂ければ結果オーライだと思っています。

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