『13の理由』が“自殺を美化するドラマ”じゃない理由

自殺を美化するドラマではない『13の理由』

 主人公クレイを友人トニーが自分の愛車の赤い旧式マスタングで送ろうと誘う。そして彼らの通う高校から自宅までの道すがら、テープに録ったジョイ・ディヴィジョンの「Love Will Tear Us Apart」を車のステレオで流して聞かせる……。

 Netflixで配信されるや今年最大のヒットドラマになると同時に、「青少年のメンタルに悪影響を与える可能性がある」「青少年の自殺を美化している」などの批判も浴びたドラマ『13の理由』、その第1話ほぼ冒頭のこのシーンだけを見ると、評価とは別に、ドラマに対する批判にも理由がないわけじゃないとも思える。

 「Love Will Tear Us Apart」といえば、リリース直後の1980年5月18日にバンドのフロントマンだったイアン・カーティスが自殺してしまったこと、「愛が僕らを再び引き裂く」という歌詞が自殺直前の彼の精神状態を反映したものとも取れることから、否応なく「自殺」というイメージと強く結びついてしまっている曲だ。さらに、ドラマ中でクレイとハンナに起こる「ある夜の出来事」と、トニーがその「出来事」を知っていることを考えると、わざわざその曲を選んでクレイに聞かせるトニーにまさに「ハンナの自殺を美化する」姿勢を感じないでもない。

 「カナダの学校でドラマを話題にすることを禁止」「フロリダでは学校の図書館から原作小説を撤去」「ニュージーランドでは国の機関が『親と一緒に観るのが望ましい』とのガイドラインを公表」……一時はこんなニュースが次々と伝わってくる状態だったが、そんな世界的な騒ぎが起こってしまった一番大きな理由は見れば誰でもすぐわかる。単純に『13の理由』が「面白すぎる」のだ。

 自殺した女子高生ハンナ・ベイカーはその理由を語った13本のテープを残していた。1本1本のテープはそれぞれハンナを自殺に追い込んだ「加害者」に宛てられており、その「加害者」が13本全部を聞き終わったら次の「加害者」に回すよう生前のハンナによって指定されていた。そのテープが、ハンナの同級生でバイト仲間だったクレイという少年に回ってきたところから物語は始まる。なぜハンナは自殺したのか? クレイは一体彼女に何をしてしまったのか? その2つの謎に引っ張られドラマは展開する。

 高校生たちのキャラクターのリアリティーとか、主演2人の相性の良さとか、音楽の使い方と意味の持たせ方とか、このドラマの美点を数え上げたらきりがないが、ヒット最大の要因は昨年の『ストレンジャー・シングス』が体現した配信ドラマの最新ヒット公式をさらに突き詰めたところだろうと思う。

 ある程度エピソード単位の独立性を持たせつつ、13話全体としても1つの大きな物語になっている構成。エピソードをまたいで細部まで繋がった伏線。大きな「謎」で引っ張りつつ、一話一話確かに核心に近づいていく語りのスピード。視聴者に「ビンジ・ウォッチング」、一気見以外の選択肢を与えないくらいの吸引力がある。

 その物語の最後に待っているのが、よりによってハンナの自殺を具体的に描いたシーンなのだ。製作者の目的意識の誠実さはよく分かるし、疑ってもいない。ただ、なまじ面白すぎ、題材がセンシティブ過ぎるだけに、このドラマに夢中になる姿を見て心配になる保護者や教育関係者の気持ちは、同じ大人としてよくわかる。

 それでも、このドラマが「自殺を美化している」という方向の批判は明らかに間違っている。それは、このドラマ自体が、「自殺の美化」につながりかねない価値観を主人公のクレイが否定し、勝利を収めるという構造に明確になっているからだ。その価値観の戦いを象徴しているのが、クレイとトニーという2人の関係だ。

※次ページ以降、ネタバレ要素があります。

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