清水富美加、『暗黒女子』で怪演! 色眼鏡で見てはもったいない3つの理由
今年の2月に、大きな話題となった清水富美加の出家騒動。所属事務所への契約解除を求めると同時に、彼女が子供の頃から信仰していた宗教団体「幸福の科学」への出家を宣言し、引退を表明したのだ。一昨年に出演した朝の連続テレビ小説『まれ』(NHK)以降、出演作が急増した人気若手女優の突然の決断に、芸能界が揺れたことは言うまでもない。
もちろん突然の出家宣言によって所属事務所から離れるということで、お蔵入りや打ち切りになる番組がいくつも出てきた一方、すでに制作されていた作品の行く末に注目が寄せられた。中には撮影途中だった映画が代役を立てて再撮影に入った話もあったり、夏の大作として大きな期待が寄せられている作品では、ちょうどティーザー予告が完成したばかりではあったが、未だにその解禁が見送られていたりもしている。
そんな中で、直近の待機作だった『暗黒女子』は、無事に予定通りの公開が決定。それでも、公開イベントに主演女優である清水が出席しないという異例の事態に見舞われたのである。一連の騒動によって、皮肉にも世間からの注目を集めることになってしまった同作ではあるが、そんな色眼鏡で見られてしまってはもったいないほどによくできた作品ではないだろうか。
敬虔なカトリック教徒の女子高を舞台に、学内の有力者だけが入ることが許される文学サークルで、闇鍋会が開かれる。そこでそれぞれが自作の小説を朗読するのだが、そのテーマは学園の女王であったこのサークルの会長の死の真相について。秘密を抱えたメンバーたちは犯人と思しき人物を名指しで指名し、自分が思い描くストーリーを述べて行くという、何とも性格の悪い作品なのだ。
秋吉理香子が執筆した、本作の原作は、“イヤミス”作品として広く知られている。この“イヤミス”という言葉に馴染みがなかった筆者だが、「読んでいてイヤな気分になるほど後味の悪いミステリー」の略称だと知り、いつの間にすごい括りが登場したものだと思ってしまった。数年前に大ベストセラーを記録した、湊かなえの『告白』もこの部類に入るらしく、言われてみれば系統はよく似通っている。
内容的にはイヤな感じでも、本作は3つの大きな魅力を携えている。まずは、これまで多くのアニメ作品を手がけてきた脚本家・岡田麿里が、初めて挑んだ実写劇場映画であることだ。かつてはVシネマの脚本を手がけた経歴のある彼女だが、ついに実写の世界に凱旋してきたとなれば、注目せずにはいられない。
超名門女子高の生徒らしく丁寧な言葉遣いの軽やかな台詞回しが、内容の“イヤ”感を増幅させるだけでなく、それぞれの語るエピソードを分ける構成は、このままアニメのショートシリーズとして作り出せそうだ。ちなみに岡田は10月に公開される『先生!』でも再び実写の脚本に挑戦。今回の出来を考えれば、今後実写でも彼女の作品に出会える機会が増えていくにちがいない。
そして、舞台となる文学サークルのサロンの一室のセット美術がまた魅力的だ。アンティーク調の家具に、本棚一杯に敷き詰められたゴージャスな書物。決して大きくない窓から注ぐ照明が、仄かな光を放ち、この一室で行われる一連の異質さをより際立たせるのである。そして、奥にあるキッチンの近代的な輝きがまたいいコントラストを放つ。
しかし何と言っても本作の最大の魅力は、若手注目株の女優たちのアンサンブルにほかならない。清水富美加と、現在『きょうのキラ君』が公開中の飯豊まりえを筆頭に、清野菜名、玉城ティナ、小島梨里杏、そして現在最大の売り出し株である平祐奈。まったくキャラクターがかぶることのない6人が内面に秘めた悪を互いにあぶり出し合い、歪んだ個性をぶつけ合うのである。
個人的には、お菓子作りに勤しむ老舗料亭の娘を演じた小島梨里杏が抜けた印象。これまでの出演作で彼女が見せてきた、大人っぽい印象を完全に封印し、可愛らしい姿を見せてくれる一方で、かなり恐ろしい秘密を抱えているというギャップが凄まじい。