石原さとみ、『地味スゴ!』悦子が“当たり役”である理由ーードラマの魅力を改めて検証
常識を打ち破ることと、ベストを尽くして働くこと
『重版出来!』や『とと姉ちゃん』など、出版業界のドラマが連続して作られている理由として、国語辞典を編纂するという仕事を扱った小説『舟を編む』の映画化作品が高い評価を得たという成功例が挙げられるだろう。『舟を編む』で描かれていたテーマのひとつに、「適材適所」という要素があった。主人公の男性は暗い性格でコミュニケーションが苦手だが、辞典編纂という職人的な場で適性を発揮し、輝く存在になっていく。
本作『地味にスゴイ! 』は、田舎の女子高生時代からオシャレなファッション雑誌の編集者になることを希望しながら、心ならずも、華やかなイメージと真逆の校閲部に配属させられてしまった女性が主人公なので、設定としては『舟を編む』と真逆に思える。しかし彼女には、身の回りの細かな点を発見することと、疑問に思ったことをどこまでも追及する根性があり、その部分を見込まれて岸谷五朗が演じる校閲部部長にスカウトされるのだ。
河野悦子は、アグレッシヴとまでいえる極端に前向きな性格から、大御所作家の表現にずけずけとダメ出しを行い、プライバシーに関わる部分まで調べ上げ、また作品タイトルにまで疑問をぶつけるなど、常識を打ち破るような個性的な校閲を行い、周囲を驚かせる。これは彼女が完全に職場にフィットしないからこそできる大胆さであり、校閲という裏方の立場からの、ある種の革命であるともいえる。ドラマが開始した当初、一部では「校閲の仕事をナメている」という反発があったとも聞いたが、それでも校閲という仕事や、作家、編集者に対して、一貫して尊敬の念を持って描かれる本作は、エピソードを重ねる度に真剣さが受け止められ、実際の校閲部員の評判も好転しているようだ。「校閲という仕事が目を向けられるようになってうれしい」という声も聞く。
サービス残業など企業体質の悪化が問題となる昨今だが、自分の望む場でなくとも、全力で自分の仕事をやり遂げる、望まれている以上に力を尽くすという姿勢は、純粋に誰の目にも尊く映る。本作が共感され、多くの人の心を打つのは、そこを中心に描かれているからだろう。『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』によって、校閲という仕事が世間的に認知され、石原さとみが演じる河野悦子は、そこから派生する地味なイメージまでをも変えてしまった。今後、憧れの仕事として校閲部員を目指す人も増えてくるかもしれない。しかし本作は校閲だけでなく、ベストを尽くすことの大切さこそをメインテーマに描いている。それは何の仕事においても、仕事に就いていない人であっても、ひとりひとりがすぐに実践できることだ。本作は、そのための力を与えてくれるドラマである。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■番組情報
『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』
日本テレビ他 毎週水曜夜10時放送
出演:石原さとみ、菅田将暉、本田翼、和田正人、江口のりこ、田口浩正、足立梨花、伊勢佳世、曽田茉莉江、松川尚瑠輝、杉野遥亮、ミスターちん、長江英和、店長松本、麻生かほ里、高橋修、鹿賀丈史(特別出演)、芳本美代子、青木崇高、岸谷五朗
原作:宮木あや子「校閲ガール」シリーズ(KADOKAWA・角川文庫)
脚本:中谷まゆみ、川﨑いづみ
演出:佐藤東弥、小室直子ほか
制作協力:光和インターナショナル 製作著作:日本テレビ
公式サイト:http://www.ntv.co.jp/jimisugo/