テレ東深夜ドラマ、“攻めた”作風の狙いは? 佐久間宣行P × 阿部真士P『刑事ダンス』インタビュー

佐久間宣行P&阿部真士Pインタビュー

佐久間「クリエイターのコアを大事にしながら、大ヒットにつなげる方法論がある」

佐久間:僕はそろそろおっさんの域ですし、若い世代に攻めてほしいなとも思ってます。僕より少し若い、阿部さんくらいの年齢の、例えば東宝の人たちが、攻めつつ、客のニーズと合致させて大ヒットした作品を見ると、やっぱりある程度、若い人たちに任せなきゃなと思います。その世代が自由にやって経験を積まないと、東宝のような黄金期は来ないんだろうなと思います。

——東宝はたしかに、今年、すごかったですね。映画業界のトレンドやヒット作は意識しますか?

佐久間:ずーっと映画が好きですし、僕はオタクなので、新海誠の『ほしのこえ』(2002年)や庵野秀明の『エヴァンゲリヲン新劇場版』(2007年)をリアルタイムで見ましたけど、まさかこの2人が邦画の一位と二位の作品を作る年が来るなんて思いもしなかったです。クリエイターのコアを大事にしながら、大ヒットにつなげる方法論があるんだなと思いつつ、それができたのは、庵野さんと新海さんが降りなかったから。コアなファンの人から一度たりとも「だせえな」「魂を売ったんだな」って思われないまま、今回のように売れたことが嬉しいし、彼らの作家性をうまく抽出しつつポップにして、世の中に届けたプロデューサーの手腕もすごいと思います。

阿部:『君の名は。』にエグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねている古澤佳寛さんをはじめ、川村元気さんなど東宝作品のプロデューサーは、圧倒的な情報量と分析力があると思います。立ち会ったわけじゃないですけど、スタッフから聞くところによると、本打ち(脚本についての打ち合わせ)では、今のトレンドやお客さんの傾向をちゃんとデータで提示したり、「あの映画のあの部分はまったく客が受けていなかったから今回はこうしましょう」という言い方をするから、説得力があるそうです。だから大御所の監督も話を聞くって言ってました。

ーーそういう作品作りをしたほうがいいんでしょうか?

佐久間:わかんないです。でも、完全データ主義ではなく、その作家の良さがそのまま出て売れるのは、理想的だなと思いますね。

ーーお二人も、プロデューサーとして、いつか組みたいクリエイターはいらっしゃいますか?

佐久間:たとえば、「ミスID」のオーディションで知り合った山戸結希さんや劇作家の根本宗子さんはものすごく才能があるので、別に僕の名前は出なくてもいいので、何かテレビで面白いことをやってほしいなと思ってます。宮藤官九郎さんや岩井俊二さんがテレビでバコーンと面白いことをやったときのような衝撃を、この2人なら生み出せると思ってます。

阿部:僕は脚本家の木皿泉さんが大好きなので、どうしてもご一緒したくて、ときどき神戸に通ってます。基本的に、ご本人の言葉で言うと「仕事があまり好きじゃない」らしいので(笑)、なかなかハードルが高そうですが。

佐久間「ネット配信は、テレビ東京的には非常にチャンス」

——今の視聴者が求めるものに応えつつ、ネットに慣れ親しんだ世代の視聴者を獲得するのは難しそうです。

佐久間:もちろん、今、テレ東を楽しんでくれている視聴者のみなさんがいなくなってしまうのは、本当に困ります。ただ、個人視聴率や録画率を見ていくと、テレビ離れのスピードが遅いのは、たまたま日本が超高齢化社会だからじゃないかなとも思うんです。

ーー今の高齢者たちが亡くなって、少子化世代が大人になったとき、テレビが終わる危機感があるんですね。

佐久間:そうなるのは嫌だなって思ってます。電車で漫画雑誌を読む人がいなくなったように、いつか「地上波のテレビはもういいや」という層が大半になっていくと思うんです。そうなる前に、今、アクティブに生活している20〜30代に、もうちょっとテレビ番組を届けたいなと思ってます。

阿部:10〜20代の、新人の俳優・女優さんが、顔見せで局に来てくれたときに、必ず、「最近、テレビ何見てるの?」って質問をするんですけど、けっこうな確率で「YouTubeしか見てないです」って言われるんですよ。「よくそれでテレビの人間に会いにくるね」と思うんですけど(笑)、僕はテレビが面白いと思うので、本当に悔しいです。

ーーYouTubeだと、自分が見たいものしか見ないってことですよね?

佐久間:そうです。本屋さんに行かず、Amazonで知っている本だけを買うのと一緒で、コンテンツとの偶然の出合いがどんどんなくなっていく。趣味や興味がタコツボ化していく一方なので、そういう層を振り向かせるのは大変ですよね。

——インターネット・メディアとのコラボレーションも、テレビを見ない層の開拓が狙いですか? 例えば、『刑事ダンス』は毎週、Amazonプライムで地上波よりも一週間早く配信されます。

佐久間:あれは、Amazonプライムから「テレ東と面白いことをしたい」と持ちかけられたことがきっかけです。阿部さんがおっしゃったように、テレ東の深夜ドラマのブランディングが成功した結果だと思います。

阿部:そうですね。これからも、配信各社といろいろな形で組んでいくと思います。

——テレビ局にとってのメリットは?

佐久間:Amazonプライムの視聴者は、ドラマに興味があって積極的に見る人なので、オピニオンリーダー的な人の感想がツイートで読めるのが面白い。映画の試写を見て批評家や評論家が感想を言う感じに近いものがありました。そこから地上波のオンエアまでに内容を修正することはないんですけど、貴重な意見ですよね。

——総務省は2019年に、テレビ番組のインターネットでの配信を全面解禁します。NHKはネット配信からも受信料を聴取する狙いがありますが、民放や地方局にとってのメリットや脅威はなんですか?

佐久間:僕も阿部さんも制作者なので、スクリーン数が増えて、見てくれる人や機会が増えることは、単純に嬉しいです。

阿部:そうなんです。うちの場合は特に、系列局が少ないので、見てもらえなかった地方の人に見てもらえますからね。

佐久間:『ゴッドタン』なんて、地方によっては半年遅れで放送されている状況なので、地上波放送と同時にネットで届けられるようになると、リアルタイムの仕掛けができるので楽しみです。テレビ東京的には非常にチャンスだと思ってます。

——ネット配信による、海外での展開は考えてますか?

佐久間:僕はコメディを作っているので、ちょっと違うかもしれない。コメディのコンテクストは国境を超えるのが難しいから、バラエティは『SASUKE』や『風雲たけし城』のように、フォーマットセールスがメインですよね。僕もアメリカのバラエティをそのまま見たいと思わないですし。でも、海外ドラマは『ストレンジャー・シングス』も『シャーロック』も大好きなので、日本のドラマも全然イケるんじゃないですか?

阿部:「国際ドラマフェスティバル in TOKYO」が毎年開催されているくらいなので、ドラマのほうが海外に売りやすいですし、配信環境が整うことで、未来はより明るくなると思います。

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