小泉今日子、深津絵里、竹内結子……黒沢清が描く“女”たちはどう変化した?

黒沢清における女たち

 この現象は、女性の活躍がめざましい現代世相の反映でもあろうが、一人の映画作家の軌跡から考えると、2012年の連続ドラマ『贖罪』での成功が大きいと想定できる。依頼された原作ものを扱うこと以上に、女優たちと共犯になって複雑な心理をもったいくつもの女性像の演出に成功したことで、黒沢映画は新たな段階に突入した。そして以降、女優を撮ることへの尊重と好奇心を隠さなくなった黒沢映画は、非常にエロティックだ。画面の中の女優たちの色香は、もはや作家自身の意識をも無視して、湿った風となり映画全編を包み込む。こうして黒沢映画の狂気は、乾きから湿りに変質したのだ。

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 しかしそれでもなお、黒沢映画の女たちは幽霊でもあり続ける。『クリーピー』で竹内結子はあるモノを使用することで、より虚ろな存在と化す。死んでこそいないが、限りなく幽霊に近づいてしまうのだ。そのような存在は竹内結子の他にもいる。過去の事件の生存者であり記憶を遡っていく川口春奈が西島秀俊を見つめる時のどこまでも黒い瞳は『叫』の幽霊だった葉月里緒奈や小西真奈美のものと酷似している。香川照之の娘になりすました藤野涼子は最初から最後まで一体何が望みで本当の感情はどうなのか全くわからない。香川照之がいくら鬼畜のサイコパスであろうと、彼女らが異界と契約するための仲介人に過ぎない気すらしてくる。それぐらい、今の黒沢映画で本当に恐ろしく面白いのは女性たちだ。10月公開となる最新作のタイトルが『ダゲレオタイプの女』であることも無関係のはずなく、そこでどんな“女”に魅せられることになるのか我々は怯えながら待つほかない。

■松井 一生
映画監督、ライター。1987年生まれ。主な監督作に『ユラメク』(14)など。ライターとしては映画記事を定期的に執筆。

■公開情報
『クリーピー 偽りの隣人』
公開中
出演:西島秀俊、竹内結子、川口春奈、東出昌大、香川照之ほか
監督:黒沢清
原作:「クリーピー」前川裕(光文社文庫刊)
脚本:黒沢清、池田千尋
音楽:羽深由理
製作:「クリーピー」製作委員会
制作:松竹撮影所
配給:松竹、アスミック・エース
(c)2016「クリーピー」製作委員会
公式サイト:creepy-movie.com

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