『とと姉ちゃん』登場人物は“戦争”をどう捉えたか? 同志との出会い描かれた十二週目

 当時は誰も戦争に負けるとは思ってもいなかったし、思っていても口にすることはできなかった。その代わり、大学を卒業した後、文学の道を諦めて工場に就職した鞠子(相楽樹)や、青柳商店が経済的に追い詰められていく姿を具体的に見せていく。こういった朝ドラにおける戦時中の描写は2011年の『おひさま』から少しずつ変化してきたものだが、本作ではより徹底されたものとなっている。

 特に印象的なのは若旦那の清の変化だ。自慢話ばかりするおどけたキャラクターとして登場した清だが、戦時下に青柳商店の経営が苦しくなってくると、滝子の理想主義的な振る舞いに対して、それではやっていけないと言い、自分から軍の関連会社に就職して、青柳商店へ仕事を回し、誰よりも現実を見て店を守ろうとしていく。

 やがて、昭和17年に日本が真珠湾攻撃をアメリカとの太平洋戦争に突入し、戦争はより激化。深川の材木商は個人営業を禁止され、店を閉めるか軍の統制化に入るかを迫られる。200年の伝統のある青柳商店を守るために、今まで信念を曲げてきた滝子だが、晩節を怪我したくないと、最後は自ら看板を下ろす選択をする。

 その後、滝子は木曽の療養地に清とともに向かい「これが滝子の姿を見た最後になりました」と、ナレーションで伝えられる。戦争がはじまってから深川からどんどん人が減り、町自体がゴーストタウン化していく姿を見せてきたが、森田屋に続き、青柳商店も閉鎖に追い込まれていく。先週の森田屋に続いて空っぽになった青柳商店の家の中が描写されるのだが、滝子の挫折感もあってか、死の匂いを漂わせた寂しいものに見える。伝統ある深川の木材問屋は、戦争によって滅びてしまったのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/

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