『海よりもまだ深く』の“カレーうどん”が食べたくなるワケ フードスタイリスト・飯島奈美氏の仕事

『海よりもまだ深く』料理の魅力に迫る

 たっぷりとカレーが染み込んだツヤツヤのおうどん。残ったカレーに鰹だしをブレンドし、弾けんばかりのグリーンピースを放り込む。最後に食欲をそそる刻みネギを添えて。熱々によく煮込まれたカレーうどんをチュルチュルと勢い良くすする阿部寛。あぁ、食べたい。今すぐにカレーうどんを胃に流し込みたい。是枝裕和監督最新作『海よりもまだ深く』は無差別に食欲を沸き立たせる“飯テロ”映画だ。私だけではなくこの映画を見てカレーうどんを食べたくなった者たちが続出している。SNSでは「映画館を出てカレーうどんを食べに行くまでが『海よりもまだ深く』」「母親の手料理を食べたくなった」などの声が上がっている。(参考:阿部寛と樹木希林、息ピッタリの掛け合いも 是枝裕和『海よりもまだ深く』本編映像の一部公開

 『海よりもまだ深く』に登場する食べ物はカレーうどんを始め、煮物やカルピスアイスなど樹木希林演じる母親の手料理が多い。煮物の落し蓋をあけた瞬間のぶわっと広がる湯気と、控えめに彩る具材たちの美しさ。このシーンの破壊力たるや。私の中に眠っていたなんとも言えない懐かしさがこみ上げてきて、これでもかというほど食欲が刺激される。視覚だけで“おふくろの味”を最大限に表現し、物語に絶妙なリアルさを与えている本作。煮物をつくりながら樹木が「こんにゃくはゆっくり冷まして一晩寝かせたほうが味が染みるのよ。人とおんなじで」と話すシーンがある。食べ物が効果的に使われ、見る人の心にダイレクトに言葉が染み渡る。本作は食事シーンが多く、食べ物が母親の“愛”と家族の“あたたかさ”を象徴するかのように、さりげなく丁寧に映しだされている。“食”は私たちが生きることに欠かせない存在だからこそ、ないがしろにできない重要な部分だ。

 劇中の食べ物を手がけたのは、連続テレビ小説『ごちそうさん』や『深夜食堂』『海街diary』などでもフードスタイリングを担当した、飯島奈美氏。『ごちそうさん』で登場したぽってりとしたツヤツヤのオムライスに、ヨダレを垂らした視聴者も多いのではないだろうか。また、料理本『LIFE』シリーズや『味の素』のCMなども手がけている。飯島氏は、2006年に映画『かもめ食堂』でフードコーディネーターとしてデビュー。『かもめ食堂』では愛らしいシナモンロールやつやつやと輝くおにぎりなどを生み出し、一躍話題に。飯島氏がコーディネートする食べ物はどれも見た目が美しく、なおかつ家庭的で美味しそうなものばかりだ。見るものに “食べたい”と思わせる、そんな料理を作り出している。

 書籍『シネマ食堂』を刊行した際のインタビューで、飯島氏はフードスタイリストの仕事について語っている。「映画のスタイリングは、設定に合わせて細かく食器や小物を選んでいるので、その映画の作り手のイメージを、私が全く違うものに変えてしまうのも良くないかなと思ったんです。 元の映画の作り手や、その映画を好きな人のイメージを壊さないように、それぞれの映画の雰囲気を出すようにしています」映画のイメージをより引き立てるために、リリース屋さんを使い分けることもあるそうだ。さらに、「量が少なすぎたり、シーンに合っていないメニューが食卓にあると、映画の流れを崩してしまうと思うので、そういう点はスタイリングする時に気を付けるようにしています」と、細かなところまで心配りを忘れない。また、メニューの提案については、「なんとなくという提案では、『もうちょっとないの?』って言われた時に、返せなくなってしまいますよね。それでは駄目で、やっぱり、『いいね』って言ってもらうための努力というか、私はこう考えて、こう調べて、それでこういう風にしましたっていう自分なりの理由を持つようにしています」と語っている。(引用:フードスタイリスト・飯島奈美さん インタビュー

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