映画祭の増加と制作コストの低下は「未来の監督」を生み出すのか? 自主制作映画の現状と課題
「映画の専門学校を卒業して約10年。僕が知る限りでは、100人近くいた同級生の中でいまだにその道で頑張っているのは3人程度ですね」
こう話すのは、「シネアスト・オーガニゼーション大阪(Co2)」という自主制作映画祭に参加したある監督だ。同映画祭は、文化庁の「文化芸術振興費補助金制度」を受け、40人の自主映画監督が参加。一日あたり20~50人程度の動員を記録した。実は、関東や関西を中心にこういった行政関与型の映画祭は広がりを見せている。
「約20万~40万の助成金が行政から支援されます。デジタル化が進んだ現在、自主制作映画に掛かる費用はざっくり1分間で約1万円程度といわれています。その中から、俳優さんの確保や弁当代、ロケ代も含め大半が監督の自腹。60分以上の作品となると約100万円は必要。時間も少なくみても3ヶ月以上を要します。演者さんもノーギャラなことが多いですが、監督は実質的な出費額が大きい。そんな中で映画を撮り続けるのはどうしてもモチベーションの維持が難しい。だから、こういった制度は有り難い面も大きいです」(先出の映画監督)
映画の専門学校や芸大を卒業した生徒達も、その大半が志半ばで監督への道を頓挫していく。時間的な問題もあり、アルバイトや時間に融通が効く職種に就かざるを得なく、金銭面も大きなネックとなる。20代の頃は監督としての活動を継続できても、30代を境に人知れず映画の世界から離れていく。また、監督デビューへの道が年々狭き門となっていることを指摘する別の監督もいる。
「今は昔と比べると、圧倒的にコスト面は抑えられるようになった。極端な話し、アイフォン1つあれば撮影はできますから。必然的に監督を志す若手は増えてきていると思う。でも、そんな“お手頃感”は確実に自主映画全体の質に影響してきています。映画祭の作品のクオリティを見ると、自分の悩みやコンプレックスを綴るだけで、社会に対して何のメッセージ性がない作品も珍しくありません。そうなってくると、受賞作や賞の価値が低下してくる。近年では各賞や映画祭が増え、一見チャンスは広がったように見えますが、『元々狭き門が更に狭まったのは?』という感覚も持っています」(東京で活動する映画監督)