『グランドフィナーレ』パオロ・ソレンティーノ監督インタビュー
「些細な瞬間が人生に勝る」パオロ・ソレンティーノ監督が語る『グランドフィナーレ』の制作意図
イタリアの映画監督パオロ・ソレンティーノの最新作『グランドフィナーレ』が4月16日に公開される。監督第4作『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』が、ショーン・ペンが審査員を務めた第61回カンヌ国際映画祭審査員賞に輝き、そのショーン・ペンを主演に迎えた自身初の英語作品『きっとここが帰る場所』が、第64回カンヌ国際映画祭エキュメニカル審査員賞を受賞。ふたたびイタリアで撮った『グレート・ビューティー/追憶のローマ』が、第86回アカデミー賞外国語映画賞を受賞するなど、数々の映画祭で高い評価を得ているソレンティーノ監督。監督第7作目となる最新作『グランドフィナーレ』では、マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、レイチェル・ワイズ、ポール・ダノ、ジェーン・フォンダら、ハリウッドで活躍する名優たちとともに、引退した音楽家が、最後の大舞台に挑むまでの愛と葛藤を描いている。リアルサウンド映画部では、メガホンを取ったソレンティーノ監督にメールインタビューを行い、本作を描こうとした背景や、キャスト陣の起用理由、その映像美から比較されることの多い名匠フェデリコ・フェリーニへの思いを訊いた。
主人公フレッド・バリンジャー役に相応しい俳優はマイケル・ケイン以外いなかった
ーー本作の着想は著名なイタリア人指揮者の実話にインスパイアされたそうですね。そのストーリーのどのような部分に魅力を感じて、映画にしよう思ったのでしょうか?
パオロ・ソレンティーノ監督(以下、ソレンティーノ):何年か前に、エリザベス女王がイタリア人指揮者のリッカルド・ムーティをバッキンガム宮殿に招いたことがありました。しかし、レパートリーで合意に至らなかったため、ムーティはその招待を辞退したのです。私は、女王の申し出を断ることなど不可能だと思っていたので、この話がとても印象に残りました。このムーティの話が最初のインスピレーションとなり、今回の作品の主人公フレッド・バリンジャーのキャラクターが誕生したのです。
ーーその主人公フレッド・バリンジャー役には、『ハンナとその姉妹』(86)、『サイダーハウス・ルール』(99)で2度のアカデミー賞助演男優賞に輝き、近年では『ダークナイト』シリーズや『キングスマン』などコミック原作映画での演技も記憶に新しいマイケル・ケインを迎えています。バリンジャー役に彼を起用しようと思ったのはなぜでしょう?
ソレンティーノ:フレッド・バリンジャーの役は、最初からマイケル・ケインを思い浮かべながら書いたのです。クラシックの作曲家はとても崇高なイメージがあったので、それに値する俳優が必要でした。それに相応しいのは、マイケル・ケイン以外いなかったのです。
ーーバリンジャーが暮らす高級リゾートホテルでは、彼の友人であり、映画監督のミック・ボイルが登場します。彼の職業を映画監督という設定にしたのはなぜでしょう? この役柄には監督自身の経験や考え方も投影されているのでしょうか?
ソレンティーノ:今回、作品内に映画監督を登場させようと思ったのには様々な理由があります。それは、未来がどのようなになっていくかという個人的な考えによるもので、自分の将来がどのようになっていくのかに興味があったからです。また、時間が経ち、肉体的・精神的な強さや情熱を失ってしまった時、自分と映画製作はどのような関係になっているかということにも興味がありました。ミック・ボイル役を演じてもらったハーヴェイ・カイテルはこれまで、数々の素晴らしい作品に出演していて、神話のような存在でした。才能あふれる繊細な俳優で、ミックには最適だと感じたのです。
ーー劇中でハリウッドスターのジミー・ツリー役を演じたポール・ダノは一番最後に出演が決まったそうですね。俳優役として彼を起用したのはなぜでしょう?
ソレンティーノ:ポール・ダノは明確に私の頭の中に浮かんでいた俳優です。彼は若いながらも非常に才能がある俳優なので、ずっと一緒に仕事をしてみたいと思っていました。
ーー今回、実在するスイスの高級リゾートホテルが舞台になっています。撮影において、これまでの作品と意識して変えようとした点はありますか?
ソレンティーノ:スイスでの撮影を決めたのは、私が思い描いていた通りのホテルを見つけたからです。それは何年ものあいだ変わっていない古いホテルで、その様子が劇中に登場するキャラクターたちにピッタリだと感じました。撮影の手法は他の作品と変わりませんが、この作品はセリフが多いので、登場人物がセリフを話している時は、よく見せるために変わった撮影手法を取ることはしませんでした。そういうシーンではカメラは静止しているべきだと思い、そこは意識して変えましたね。