新相棒・冠城亘(反町隆史)を迎えた『相棒 14』、その成功の鍵はどこにあるか?

 そんな突貫工事的な制作スケジュールが『相棒』ワールドのグルーヴを生んできたのは確かなのだが、それが裏目に出てしまったのがあの悪名高いseason 13最終話「ダークナイト」だった。3シーズンにわたって活躍してきた相棒が実は……というのは、15年以上続いているシリーズの上では「あってもいい」ドンデン返しのパターンだったとは思うが、あの作品が多くの『相棒』ファンの拒絶反応を生んでしまったのは、そこに至るまでの伏線がほとんど、というかまったく描かれていなかったからだ。「ダークナイト」の脚本を手がけた輿水康弘は「土曜ワイド劇場」時代から『相棒』を書いてきた「『相棒』の生みの親」の一人であり、自分も「『相棒』でなにをやっても許される」唯一の脚本家として別格視している存在だが、あの作品を世に送り出すには、1本の作品としての完成度は別として、脚本家→プロデューサー→別の脚本家のリレーションが致命的に欠けていたと言わざるを得なかった。

 『相棒』には横軸と縦軸の物語がある。横軸とは、個々のエピソードで描かれる事件のこと。縦軸とは、警察の上層部との関係、その裏にある組織的な陰謀、過去の事件の登場人物、各キャラクターの過去にまつわる物語のこと。『相棒』においてその縦軸の物語が最もスリリングに機能していたのは、劇場版Ⅱで退場してしまった警察庁長官官房室長・小野田公顕(岸部一徳)がいた時期で、その代わりになり得る存在が久々に現れたことで期待された警察庁次長(season 14からは警察庁長官官房付)・甲斐峯秋(石坂浩二)は、登場から4シーズン目に入った今なお「宝の持ち腐れ」といった印象が強い。絶対におもしろいカードになるはずなのに、脚本家が横軸の物語にばかり気を取られて、縦軸の物語でうまく利用しきれていないのだ。ところが、season 14に入って、冠城亘の上司である法務事務次官・日下部彌彦(榎木孝明)が登場したことで、その縦軸の物語に大きな変化の兆しが見られる。これは期待せずにはいられない。

 『相棒』は売れっ子脚本家の「虎の穴」的な作品でもあったが、実は前シーズンから櫻井武晴、戸田山雅司、古沢良太といったこれまでの『相棒』において要所要所で重要な役割を果たしてきた有名脚本家がゴソっと抜けてしまった(復帰する可能性はあるかもしれないが)。つまり、前回のseason 13は、輿水康弘以外、比較的浅いキャリアの脚本家が中心となった初めてのシーズンだった。そう考えると、『相棒』という大舞台でなんとか爪痕を残そうとする新参の脚本家が、目の前の物語(横軸の物語)ばかりに注力してしまったのも無理はなかったのかもしれない。

 season 14で成功の鍵を握るのは、反町隆史がどのように『相棒』ワールドに新たな刺激をもたらすかではなく(これまでの4話を見て、それについては信頼していいと思った)、脚本家たちがいかに縦軸の物語に挑むことができるかだと思う。そして、そこで重要になってくるのは、個々の脚本家とプロデューサーの密なリレーションだろう。「ダークナイト」の失敗を繰り返さないために。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「ワールドサッカーダイジェスト」ほかで批評/コラム/対談を連載中。今冬、新潮新書より初の単著を上梓。Twitter

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