池脇千鶴の変化していく姿が与える勇気と希望 『その女、ジルバ』は“再生の物語”に

『その女、ジルバ』は“再生の物語”に

「ホステス求ム! 40才以上」

 40才“以上”? 40才“以下”の間違いではなくて?……と思わず目を疑ってしまうようなチラシをまさに40歳を迎える誕生日当日に発見した、池脇千鶴演じる笛吹新がヒロインのドラマ『その女、ジルバ』。現在、東海テレビ「オトナの土ドラ」枠で放送されている。

 本作は有間しのぶによる同名コミックが原作。恋人との結婚は直前で破談、大手百貨店のアパレル店員として働いていたが、「姥捨て」と揶揄される物流倉庫へと左遷された新が、熟女BAR「OLD JACK&ROSE」でホステスとして働きながら失った希望と自分への自信を取り戻していく、いわば再生の物語だ。

 10代の頃は誕生日が嬉しくて仕方がなかったのに、20代、30代、40代と年を重ねるたびに憂鬱な気分になり、純粋に「おめでとう」という言葉に喜べなくなるのはなぜだろう。とりわけ、何かと年齢へのこだわりが強い日本では、“年を取ること“を、多くのものを失う”、“終りに向かっていく”といったネガティブなイメージと結びつける人が多い。

 新も例外ではなく、記念すべき40才の誕生日当日をいつも以上に暗い顔で過ごしていた。通勤途中には、体調が悪そうに一人公園でうずくまる高齢の女性に未来の自分の姿を見る。

 図らずもドラマが始まる約2カ月前、都内で路上生活者の女性が通りがかった男性に暴行され、たった一人で亡くなった。もともと親族とは疎遠で一人暮らしをしていたが、2020年3月頃に家賃滞納でアパートを追い出され、路上で生活を送りながら立ち直りを模索していた途中だったという。

 この事件を受け、2020年12月には殺害された女性を追悼する集会とデモが代々木公園で行われた。参加者が掲げた「彼女は私だ」というプラカードは、未婚で経済的に不安定な女性の多くが、新のように「いつか都会の片隅で行き倒れるかもしれない」という恐怖に怯えていることを物語っている。

 しかし、新が見たその女性は「OLD JACK&ROSE」で“くじらママ(草笛光子)”と親しまれるホステスだった。勇気を出して重い扉をあけたその向こうで、新はくじらママだけではなく、ひなぎく(草村礼子)、ナマコ(久本雅美)、エリー(中田喜子)という活気に満ち溢れた年上の女性たちに出会う。彼女たちは人生の先輩として、新に「いくつになっても女性は輝ける」ことを証明していくのだ。

 普段は職場で再会した元恋人の前園(山崎樹範)から「老けたな」と言われたり、若い男性から「おばさん」と呼ばれて傷ついたり……。けれど、ひと度“アララ”という源氏名をつけられた新は、お店で「ピチピチ」「ヤングギャル」とちやほやされ、少しずつ自分に自信を持ち始める。

 年配の女性が活き活きと人生を謳歌し、その姿が魅力的に描かれる海外映画を一本観終わったような高揚感。同時にこのドラマは、誕生日をバーの仲間に祝われ、思わず泣いてしまうような新と、彼女と同じ境遇に立つ女性たちの孤独を包み隠したりはしない。バーを出れば、そこは現実。せっかく前向きな気分になっている新に、彼女がホストにハマっていると勘違いした同僚たちが釘を刺す。シンデレラストーリーのようで、ちゃんと現実に根を張っているからこそ、リアリティがあって共感できるものになっている。

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