映画『バクマン。』に溢れる、マンガへのリスペクトーー松谷創一郎がその意義を考察

松谷創一郎が『バクマン。』の矜持を考察

映画でマンガを描くことの意味

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 映画でマンガへのリスペクトを表明することがなぜ重要かというと、私はマンガが日本のコンテンツの基盤だと考えているからです。実際、2000年代中期以降に復活した日本映画は、マンガ原作、アニメ、それとドラマのスピンオフ作品の三本柱です。しかもアニメとドラマのスピンオフも、もとはマンガ原作であるケースが多い。統計的に処理をしても、オリジナルや小説原作は数が減っており、しかもそれらの映画がヒットする度合いは低いのです。日本映画は、マンガを土台としているんです。

 しかし、若い人からお年寄りまで多くの人々がマンガに親しんできたにも関わらず、日本社会でマンガはまだまだ十分に評価されていないと思います。私はそれが不満で、もっとマンガに対する敬意を払うべきだと考えていたからこそ、映画『バクマン。』はすごく嬉しかった。

 映画の後半で、定食屋とか電車内で、人々がマンガを読むシーンが出てきますが、これはまさに川口たろうの「マンガは読者に読んでもらって、初めてマンガなんだよ!」という言葉を表しています。マンガ家がいて、編集者の手によって雑誌や単行本というメディアを介し、そして読者の手に渡り読まれる――送り手・メディア・受け手という一連のプロセスを経て、はじめてマンガは成立します。先ほども言ったように、マンガは面白いもの、多くの読者に届くものを目指すもので、その姿勢こそがマンガ文化を発展させてきた“力”です。しかも人々が生活の中で自由に読むもので、受け止められ方も読者によって自由です。あの何気ないシーンはそうしたマンガの豊かさがよく表れていました。一部の映画ファンのように、作品の良し悪しをめぐって差異化競争をするような古いタイプのオタクはほとんどいません。

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 そもそもメジャーの娯楽コンテンツは、さまざまなひとに受け止められるものです。当初は子供の読み物だとバカにされながらも、マスに向き合うことで、マンガというものはどんどん成長してきました。そのことを明確に示した映画『バクマン。』は、マンガや映画だけでなく、なにかに誰かに伝えたり届けたりする仕事をしている人たちにとって、特に強く響く作品でしょう。

(構成=松田広宣)

■松谷創一郎(まつたに・そういちろう)
1974年、広島市生まれ。ライター、リサーチャー。商業誌から社会学論文、企業PR誌まで幅広く執筆し、国内外各種企業のマーケティングリサーチも手がける。得意分野は、映画やマンガ、ファッションなどカルチャー全般、流行や社会現象分析、社会調査、映画やマンガ、テレビなどコンテンツビジネス業界について。新著に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(原書房/2012年)。

■公開情報
『バクマン。』
全国東宝系にて公開中
出演:佐藤 健 神木隆之介
染谷将太 小松菜奈 桐谷健太 新井浩文 皆川猿時
宮藤官九郎 山田孝之 リリー・フランキー
脚本・監督:大根 仁
原作:大場つぐみ 小畑健(「バクマン。」ジャンプ・コミックス/集英社刊)
(C)2015映画「バクマン。」製作委員会
公式サイト:http://bakuman-movie.com/

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