ハイブリッドなホラー『ザ・ヴァンパイア〜残酷な牙を持つ少女〜』が描く、ポップカルチャーの記憶

『ザ・ヴァンパイア』のハイブリッド性とは

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 絵画、彫刻、バンドやDJ、さらはポールダンサーなど、映画監督以外にも、さまざまな顔を持つ彼女のセンスは、本作の随所に散りばめられている。たとえば、チャドルの下には、ジーン・セバーグのようなボーダーTシャツを着ている“ザ・ガール”。白いTシャツにジーンズ、サングラスのアラシュは、さながらジェームス・ディーンのようだ。そして、監督曰く、劇中に登場する“ザ・ピンプ”サイード(ドミク・レインズ)のキャラクター造形は、ダイ・アントワード(南アフリカのラップ・グループ。そのメンバーであるニンジャとヨーランディは、ニール・ブロムカンプの映画『チャッピー』にも出演している)のニンジャからヒントを得ているのだという。

 画面設計は、あくまでもストイックに。ただし、そこに登場する人やモノ、そして音楽には、彼女がこれまで享受してきた、さまざまなポップカルチャーの影響が色濃く感じられる本作。特に、イランのアーティストの楽曲や、マカロニ・ウェスタンを意識したインスト曲、さらにはイギリスのロックバンドの楽曲など、劇中で使用される音楽のハイブリッド加減は、彼女のセンスならではのものだろう。それは、これまで観たことのないような、実に不思議な感覚を観る者にもたらせる。すごく知っているようで、まったく知らない世界。そもそも、鋭い牙で相手を咬み殺すとはいえ、主人公“ザ・ガール”は、本当に我々が知っているような“吸血鬼”なのだろうか? むしろ、増長する男性たちを懲らしめる、フェミニズム的な観点も、そこにはあるのかもしれない。

 いずれにせよ、本作の制作総指揮のひとりに名を連ねている、ホラー好きの俳優イライジャ・ウッドをはじめ、韓国の配給権を買い付けた俳優ソ・ジソプなど、評論家筋はもちろん、役者たちからの評価も高いアナ・リリ・アミリプール。ちなみに、現在彼女が制作中という次回作(カニバリズムのコミュニティにおけるラブストーリーだとか……)には、キアヌ・リーヴスやジム・キャリーの出演が予定されているなど、今後ますます頭角を現してくるに違いない、注目の女性監督のひとりだ。

 映画『ザ・ヴァンパイア〜残酷な牙を持つ少女〜』は、新宿シネマカリテほか全国ロードショー中。

(文=麦倉正樹)

■公開情報
『ザ・ヴァンパイア〜残酷な牙を持つ少女〜』
新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー中
監督:アナ・リリ・アミリプール
キャスト:シェイラ・ヴァンド/アラシュ・マランディ
撮影監督:ライル・ヴィンセント
脚本:アナ・リリ・アミリプール
製作総指揮者:イライジャ・ウッド
上映時間:101分
製作国:アメリカ
配給会社:ギャガ 映像事業部
(C)Shahre Bad Picture, LLC
公式サイト:http://vampire.gaga.ne.jp/

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