『ヤニねこ』のクズっぷりは「ヤンマガ」40年の伝統芸!? 『稲中』から『ハンチョウ』まで、クズ漫画の系譜を辿る

『ヤニねこ』は「ヤンマガ」40年の伝統芸?

 7月2日夜よりテレビアニメ放送が始まった『ヤニねこ』が話題を呼んでいる。本作は、漫画家集団「にゃんにゃんファクトリー」がXでの投稿から開始し、現在「週刊ヤングマガジン」で連載中の人気コメディ。人間と獣人が共存する世界を舞台に、重度のニコチン中毒で怠惰な獣人・ヤニねこをはじめとする、ろくでなしなキャラクターたちの不摂生な日常を描く。

 この『ヤニねこ』が備える、他人に迷惑をかけながらもどこか憎めない、いわゆる「クズ」や「ダメ人間」を主役としたギャグの味わいは、決して突発的に生まれたものではない。実はヤンマガが約40年間にわたって培ってきた、独自のギャグ漫画の系譜を受け継ぐ最新形なのだ。

 ヤンマガにおける不条理でクズな人間を描くギャグ漫画の歴史を遡ると、1982年に連載が始まった片山まさゆきの『ぎゅわんぶらあ自己中心派』が思い出される。本作は一話完結型の麻雀ギャグとして大ヒットを記録し、登場人物たちのゲスさや自己中心的な行動を純粋な笑いへと昇華させた。この作品がヒットしたことで、人間のエゴや欲望を肯定して面白がる土壌が誌面に根付くことになる。

 その流れを決定づけたのが、1990年代に登場して社会現象となった古谷実の『行け!稲中卓球部』だ。1995年にテレビアニメ化もされた本作は、男子中学生たちの極限の自己中心性、醜い嫉妬、変態行為、他人の不幸を喜ぶ下劣さを徹底的に描き、ヤンマガ流クズギャグの頂点として君臨した。深夜アニメの黎明期にその奇行の数々が映像化され、多くの視聴者に衝撃を与えたものだった。

 2000年代に入ると、社会の変容とともにダメ人間の描き方も多様化していく。その代表格が、2007年に実写ドラマ化された阿部秀司の『エリートヤンキー三郎』である。この作品の面白さは、内気なオタクである主人公の三郎自身ではなく、その周囲に集まる取り巻きたちの金や権力に群がる強烈なゲスぶりにあった。特に主要キャラクターである河井星矢などの保身と強欲にまみれた行動は、人間の汚い本音を突いて笑いを誘うヤンマガらしいキャラクター造形であった。

 さらに2010年代には、より過激な嗜好に焦点を当てた作品がアニメ化されていく。平本アキラの『監獄学園(プリズンスクール)』は2015年にテレビアニメ化され、男子高校生たちの常軌を逸した変態性や、生き残るために仲間を平気で裏切る保身の姿を、非常に緻密で美麗な作画で描ききった。シリアスで美しい映像だからこそ、キャラクターたちの見せるクズさが際立つという効果的な仕上がりとなった。

 また、2017年には福本伸行の『カイジ』シリーズの超人気スピンオフとして『1日外出録ハンチョウ』(原作:萩原天晴、漫画:上原求・新井和也)がスタート。本作は、借金のために地下強制労働施設に落とされた大槻太郎たちが、1日外出券を使って地上のグルメやサボりをとことんエンジョイする自堕落な日常が描かれている。2018年には、同じくスピンオフ作品である『中間管理録トネガワ』の放送枠を“ジャック”する異例の形で一部エピソードがアニメ化され、大槻班長による「ダメな大人のリアルな言い訳やこだわり」が視聴者の共感を呼んだ。この「悪党・ダメ人間の愛すべき日常」というアプローチが、現代の日常系クズギャグの礎をさらに強固なものにしたと言える。

 そして2020年代、この系譜の最先端として現れたのが『ヤニねこ』である。本作が過去のヤンマガ作品と一線を画すのは、かつての毒気や悪意、騙し合いといった鋭いトゲが薄れ、代わりに「全肯定型の愛される不摂生」へとシフトしている点だ。主人公のヤニねこは、すべての物事でタバコを最優先し、大酒飲みの「アルねこ」や、配信者でありながら失禁癖のある「ハメねこ」らと共に、泥沼のような怠惰な日々を送っている。

 ネット上では「これを観ていると不思議なほどタバコを吸う気が失せる」「禁煙治療の教材に使えるレベルの泥沼感」「いっそのこと厚生労働省が禁煙推進アニメとして公式に推奨したほうがいいのでは」と、その内容に卒倒した人が続出。それでも、自分の欲求に嘘をつかずにダラダラと生きるヤニねこたちの姿は、現代の読者にとって不思議な安心感や癒やしとして親しまれている。

 時代の変化に合わせてセコさ、下劣さ、変態性、怠惰、そして不摂生へとその形を変えてきたヤンマガの「社会不適合者ギャグ」。その真骨頂とも言える“令和の問題作”を、ぜひチェックしてみていただきたい。

■作品情報
『ヤニねこ』
1〜12巻発売中
著者:にゃんにゃんファクトリー
定価:759〜792円(税込)
出版社:講談社(週刊ヤングマガジン)

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