『チェンソーマン』はサブカル氷河期世代の教科書? 作中に散りばめられた「映画オマージュ」に注目

劇場版アニメ『チェンソーマン レゼ篇』が9月19日に公開され、公開18日間で観客動員数296万人、興行収入45億円を突破。早々に興収50億円も超える勢いを見せている。
藤本タツキ原作の『チェンソーマン』は、2018年より集英社「週刊少年ジャンプ」で連載がスタート。累計発行部数は3000万部を超え、「このマンガがすごい!2021」オトコ編1位にランクインするなど高い評価を受けている。
物語は、貧しい少年デンジが悪魔の心臓を持つ「チェンソーマン」として蘇り、世の悪魔を狩るダークヒーローアクション。本作は、主人公であるデビルハンターのデンジが謎の少女レゼと出会い、惹かれ合うが、実はデンジの心臓を狙うソ連からの刺客であることが判明し、悲しい戦いに巻き込まれていくというストーリーとなっている。
そんな『チェンソーマン』は、幅広い層に支持されている『鬼滅の刃』と比べると、若者から支持されているのが特徴的。その理由のひとつが「サブカルチャー」作品であることが挙げられる。
とりわけ令和世代は昭和、平成世代に比べ、「自分だけが知る特別なサブカル」を享受する機会に乏しいとされている。街中のヴィレッジヴァンガードやTUTAYAのような、サブカルの情報や作品に直接触れられる場所は縮小・閉店が相次ぎ、偶然の発見や他者との差別化の喜びはほとんど失われている。
その代わり、Netflixや各種サブスクサービスを通じて、過去の名作や先人たちが築いたサブカルを後から追体験する形が主流に。そんなサブカル氷河期世代の“飢餓感”を埋める存在としても『チェンソーマン』は注目を浴びているのだ。
というのも、藤本タツキはB級やアングラ映画、カルト作品に深い愛情を注ぎ、単行本の作者コメントでも毎回映画への熱い想いを公言。作中にも映画的オマージュや引用が随所に散りばめられている。令和世代の読者がこうした元ネタを調べることで知的好奇心を刺激し、サブカル知識を蓄積する機会となっている。
実際、レゼ篇でも「映画オマージュ」の場面は枚挙にいとまがいないほどで、藤本タツキ自らがパンフレットやガイドブック、インタビューなどで解説しており、元ネタの鑑賞を推奨しているほどだ。
たとえば、レゼ篇のキーアイテムの爆弾、暗喩を用いた例え話、男女2人を取り巻く構図は『人狼 JIN-ROH』(2000年)と丸々同じ。電話ボックスで描かれるデンジとレゼの接近は、恋愛映画の名作『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)を反映していたことが明かされている。
劇中では夜の学校に忍び込んだ2人が裸になって大はしゃぎする姿が印象的だったが、こちらは『台風クラブ』(1985年)で生徒たちが下着姿で踊るシーンを彷彿とさせ、藤本は「夜の学校の危うい空気を出したかった」と解説している。
他にも、『ノーカントリー』(2007年)や『シャークネード』(2013年)、さらには『スパイダーマン』(2002年)、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』(2004年)といった有名作まで、組み込まれたオマージュ作品は優に10作品以上。『チェンソーマン』は、若者のサブカル欲を満たすうえでも、最高の教科書となりそうだ。






















