市川沙央『ハンチバック』が文庫に 「世界に遅れず『ハンチバック』の衝撃を味わうなら今です、今!」

市川沙央の『ハンチバック』が10月7日(火)に文春文庫として文庫化される。
芥川賞を受賞した本作は、重度障害者である著者自身の身体や生の在り方を迫力ある筆致で描き出し、刊行当初から大きな話題を呼んだ。文学作品としての価値にとどまらず、読書バリアフリーや多様な存在のあり方をめぐる社会的な議論に火をつけた一冊でもある。
衝撃は国内にとどまらず、すでに25の国と地域で翻訳が決定。英訳版は、全米図書賞〈翻訳文学部門〉のロングリストに選出され、日本人作家の作品として唯一のノミネートとなった。文学性と同時に普遍的なテーマを持ち、世界の読者からも強い関心を集めていることがわかる。
今回の文庫版では、単なる再刊ではなく大幅な加筆要素が取り入れられた。本文中に振られるルビが増量され、より幅広い層の読者にとって読みやすい仕様となった点は注目に値する。さらに巻末には、著者が執筆時に大きな影響を受けた荒井裕樹(『凜として灯る』著者、二松学舎大学文学部教授、文学研究者)との往復書簡が特別付録として新たに収録されている。この往復書簡は「世界にとっての異物になってやりたい」という挑発的かつ深いテーマのもとで展開され、すでに「文學界」2023年8月号で話題を呼んだものだが、文庫版にはさらに新たに書き下ろされた内容が追加されている。
『ハンチバック』は、個人の生のリアリティを描きながら社会に鋭く切り込む作品であり、文庫化にあたり新しい層の読者との出会いを期待させる。今回の文庫版は、文学的価値と社会的意義の両面を兼ね備えた“決定版”ともいえる存在となりそうだ。
市川沙央 コメント
小さな部屋で主人公の釈華がつむいだ言葉たちは、解き放たれるや海を越え20カ国以上の人々に読まれて、みんなの心をざわつかせているらしいです。その驚異的な爆発力を持った物語が、いよいよ文庫になって皆様のお手元に届きやすくなりました。こんなにコンパクトな一冊の本が、あなたの心に大事件を起こすとしたら、ものすごくコスパがいいと思いませんか!世界に遅れず『ハンチバック』の衝撃を味わうなら今です、今!
『ハンチバック』あらすじ
井沢釈華の背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。
両親が遺したグループホームの十畳の自室から釈華は、有名私大の通信課程に通い、しがないコタツ記事を書いては収入の全額を寄付し、18禁TL小説をサイトに投稿し、零細アカウントで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」と呟く。
ある日、グループホームの男性ヘルパー・田中に、そのアカウントを知られていることが発覚し――。
市川沙央(いちかわ・さおう)
1979年生まれ。早稲田大学人間科学部eスクール人間環境科学科卒業。筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側彎症および人工呼吸器使用・電動車椅子当事者。2023年、「ハンチバック」で第128回文學界新人賞、同作で第回芥川賞受賞。最新作は『女の子の背骨』(文藝春秋刊)。
■書誌情報
『ハンチバック』
著者:市川沙央
価格:660円(税込)
発売日:2025年10月7日
出版社:文藝春秋






















