出雲神話と古代イスラエルの接点とは? 古代史の魅力が凝縮された新たなるミステリ『マサダの箱』を読む

古代史ミステリ『マサダの箱』の魅力

 古代史や考古学は、常に人々を引き付ける存在であり続けている。発掘調査で大発見があるたびにニュースを騒がせる話題になり、人々の注目を集めている。そして、古代史の最大の魅力は、史料や遺物に触れることによって、時間を超えたタイムトラベルができる点にあるのではないだろうか。

 そして、日本の古代史はヴェールに包まれた部分が多く、ミステリの宝庫といえる。判明していない事実や謎が多いからこそ、かえって想像力をかきたてる点こそが、熱心な愛好家が多い要因でもあるだろう。

■時間も場所も超越した謎に迫る

 越ナオム氏のミステリ小説『マサダの箱』(知道出版/刊)は、ミステリファンのみならず、古代史好きにおすすめしたい一冊である。

 物語は、東京と出雲で相次いで2人の男の遺体が発見されたことに始まる。エリート警部補の小坂柚月とイケメン歴史学者の南雲光は、事件を追って出雲に向かうことになる。

 そこで出合ったのは、出雲の荒神谷遺跡から発掘された銅鐸であった。銅鐸には謎めいた文字が刻まれていたが、それはなんと、古代イスラエルで使われていた古代ヘブライ文字だった。なぜ、日本で発掘された銅鐸に古代ヘブライ文字が刻まれているのか。調査を進めていくなかで、2人は、事件の起源が西暦73年の古代イスラエルにあることを突き止める。

 カギになるのは、第1次ユダヤ戦争の要塞・マサダが陥落した際に持ち出された秘宝、“マサダの箱”だ。そのマサダの箱はひそかに受け継がれ、やがて出雲に伝来することになるのだが、それが殺人事件とどう絡むのか――物語は現代と古代が交互に展開しつつ、やがてリンクしていき、終盤で事件の真相が明らかになる。

 日本は海洋国家であり、その起源を大陸に求める説は以前からある。古代から大陸に対して開かれていた日本には、ユダヤに起源をもつ言葉や地名が多いとか、文化・風習にも大陸とよく似たものがあると言われる。そして、日本の遺跡からは謎めいた文字が刻まれた遺物やオーパーツも多数発見されているが、その多くは謎のままだ。

 荒神谷遺跡で発掘された銅剣のほとんどに“×”の文字が刻印されており、その意味するところはわかっていない。遺跡からは358本もの大量の銅剣が発見されているが、これほど大量の銅剣は一カ所からまとまって出土した例は、これまでに存在しない。もちろん、埋められた理由そのものが謎に包まれている。

 古代ヘブライ文字のくだりは越氏の創作であるが、そういった文字が刻まれていても不思議ではないほど、イレギュラーな遺物なのである。『マサダの箱』はフィクションではあるものの、あってもおかしくないな、と思わせる描写がいくつも登場する。古代史に造詣が深い越氏の筆力が存分に発揮されているといえよう。

 『マサダの箱』は古代史の魅力が凝縮された一冊である。読み進めているうちに柚月と光と一緒に旅しているような気分に浸ることができ、読後には時空を超えた旅をしてきたような充実感が得られる点も魅力だろう。

出雲神話にユダヤ伝説ーー時空を超えた歴史ミステリ『マサダの箱』作者に聞く“古代史”の魅力

時空を超えて私たちを魅了してやまない古代史。これまでに発掘された出土品のなかには、謎めいた文字が刻まれていたり、由緒不明のものも…

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