【漫画】才能ない人は創作したらダメ? ものづくりをする全ての人に刺さる『相楽部長は天才』がアツい

――Xに上げてみて反響はいかがでしたか。
えみっくす:16万インプレッションくらい読まれて手応えを感じました。本作は漫画プログラム「コルクマンガ専科」第10期生の卒業制作で提出したものなんです。
横の繋がりができて、お互いの作品についてフィードバックしあえた環境がよかったですね。いちいち講師の先生に質問するような面倒くさい生徒でしたけど(笑)。
――本作の着想を教えてください。
えみっくす:「コルクマンガ専科」では毎週1本のペースで4~8ページの漫画を出すという課題があって、講師から出された8つのテーマのひとつに「圧倒的な力」という項目があったんです。そこで相楽先輩の圧倒的さを描くアイデアが浮かびました。
もともと描きたい話ではあったんですよ。「高校の美術部でアクションペインティングとかやればいいのにな」と前から思っていたので。そんなところから孤高な人を描こうと考えました。
――それでいて主人公が正反対の木野山君に設定しているところが興味深いです。
えみっくす:読切作品なので、孤高な人だけを描くよりもいいかなと。それに一生懸命作ったものを他人に見せられないクリエイターが多いので彼らに気付いてほしいという気持ちもありました。
――登場キャラクターに自身を投影している部分もあります?
えみっくす:「木野山君と相楽さんのどちらが自分なの?」と聞かれることが多いのですが、返答としては「どちらも自分」。ただ楽しいから描いている自分もいるし、一方で作品を公表することに臆病な自分もいる。両者が葛藤しているような形ですね。
――物語作りで心がけたことは?
えみっくす:過去の経験上、暗いシーンから始めると読まれないんです。だから冒頭で「ひとりで描いていて楽しい」、「でもその場所がなくなってしまいそうだ」というふたつのことを1ページで表現するように調整しました。
あとこだわりではないのですが、20代中盤に虫プロダクションで撮影をしていたこともあって、構図がアニメーションに近いと言われるんです。自然に表現がダイナミックになりやすいのかなと。
――最後のアクションペインティングの一枚絵も見事でした。
えみっくす:木野山君がベニヤを繋いでくれた大きなキャンバスに絵を描くだけでは迫力が出ないので、よく見るとそれをはみ出して壁にも描いてある場面になっているんです。「掃除はどうするんだよ!」という感じですけど(笑)。
彼女のキャラクターがよく表すシーンにできたなと思いますし、同時に木野山君との対比も描けたと思います。漫画と比較してアートの方が上に見られがちですが、ジャンルで優劣を付けるのではなく「両方とも戦っていてすごい」という絵。だから竜虎図なんです。
――どこか漫画家を叱咤激励するような内容になったのはなぜなのでしょう?
えみっくす:出版社の漫画投稿サイトなどで生年月日を入れる項目が必ずあるんですよ。私はある程度の年を経てから改めて漫画を志したので、あの年齢の欄で弾かれている気がしていて……。そんな時に「コミチ」というサイトでプロの方が認めてくださるようになったのが救いでした。
世の中的にも投稿サイトよりもSNSを使って出すなど自分から動く方が主流になってきています。だから常に世に問うような挑戦していった方が早い、という漫画家の皆さんへの投げかけなのかもしれません。
――それを踏まえて、漫画や創作にとって年齢は関係あると思います?
えみっくす:関係ないと思います。構図や脚本、SNSの使い方など20歳であろうが、50歳であろうが学ぶことって山ほどあるんですよ(笑)。残り時間の多い少ないだけ。やりたければやればいいし、やりたくなければやらなければいい。それだけの話ですよ。
――今後はどのような活動を?
えみっくす:正直なところ、体力的にネームからペン入れまでやりきるのがきついんです(笑)。だから原作とネームまで作って、絵の上手い人に頼める形が理想。その方が作品をたくさん出せると思うので。