あなたに“守るべき居場所”はあるかーー内戦に翻弄される呪術師たちの物語『邪行のビビウ』の普遍的な問いかけ

東山彰良『邪行のビビウ』レビュー

邪行師ビビウはなぜ強くなれたか

 物語のクライマックス、ビビウはある騒動に巻き込まれ、無数の人々(と死者たちの尊厳)を守るため、命を賭した大掛かりな邪行術に挑むことになる。いや、より正確にいうならば、この時の彼女が守ろうとしたのは、「無数の人々」などではなく、愛する大叔父とその親友の2人だけなのだ。

 つまり、このビビウの命懸けの戦いは、彼女の育ての親でもありメンターでもある2人の人物――別のいい方をすれば、彼女にとってのかけがえのない居場所を守るための戦いなのである。

 とはいえもちろん、「無数の人々」にも、それぞれの“魂の居場所”があるということを、プロの邪行師である彼女は頭のどこかで理解していたはずだ。

 ビビウはいう。

十七年の人生で得たものはたくさんあったし、ここまできたら、失ったものでさえ、はじめから手がとどかなかったものでさえ、得たものとして数えてもいい。失恋もしたし、大切な人も亡くした。後悔もしたし、ほんとうにたくさんのことを選べなかった。自分で命を育むかわりに、数えきれないくらいの死に寄り添ってきた。

 果たしてビビウの一世一代の邪行術は成功したのか。その結末をここで書くような野暮なマネはしないが、最初から最後まで、彼女は「死」を恐れてはいなかっただろう。なぜならば、もともと「死」とは彼女が幼い頃から「寄り添って」きたものであったし、仮にこの戦いで命を落とすようなことになったとしても、邪行師の大叔父さえ生き延びてくれれば、ふたたびあの懐かしい家に「自分の足で」帰らせてくれるだろうから。

 そう、彼女には守るべき居場所があった。失敗や後悔も含めた大切な人々との思い出と帰りたいと思える家があった。だからこそ強くなれた。あなたにはそんな場所があるだろうか。

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