【漫画】人前で歌えない少女、そのトラウマを振り払えた理由はーー不思議な出会いを描いた『クジラと歌』に感動

【漫画】『クジラと歌』

ーー本作を創作したきっかけを教えてください。

シシカバ:映画『ドラえもん のび太と雲の王国』には、のび太が雲の王国から元の世界に戻ると街が水浸しになっているシーンがあります。幼いころに見たそのワンシーンが衝撃的で「水」をテーマにした作品を描きたいと思い、本作を創作しました。そんな経緯で描きはじめた作品なので、水の描写は水彩画、水墨画みたいな感じで表現できたらと思っていました。

 また登場人物の2人はお互いに異なるタイプのキャラクターとして描くことも意識していました。「歌う」ことに対してトラウマを抱えたチヨコに、特異な体質のミナミが絡むことでチヨコがどう変化するかーー。そんな内面的成長も描けたらと思いながら、本作を描きはじめました。

ーーまさに水彩画を彷彿させる水の描写が印象に残っています。

シシカバ:水に関する描写は水彩紙と墨汁を用いて描きました。本作は主に紙やペンといったアナログの画材をつかいながら制作しており、ベタ塗りや細かな修正などはデジタルツールを用いています。とくに水の質感を表現するにはアナログなツールの方がリアルで、味のある感じになると考えていました。

ーー水の存在が強調された本作において「クジラ」をモチーフとした理由は?

シシカバ:哺乳類のクジラが水中で生活している背景を調べはじめ、なぜ潮を吹くのかとか、超音波で意思疎通を取っていることを知り、クジラの生態が本作のストーリーに上手くハマると思ったからです。

 本作であればクジラと歌といったように、別々の何かを組み合わせて1つの作品にすることが好きで。また現実的な世界の中に、ほんの少しのファンタジー要素がある作品も好きなので、ファンタジー要素の部分を考えるなかでクジラと似た体質の女の子がいいなと思いました。

ーークジラのような女の子・ミナミさんと対照的に描かれる、チヨコさんを描くなかで意識したことは?

シシカバ:「歌」は漫画で表現することが非常にむずかしく、どうやって表現しようか悩みました。そんななか本作には派手なシーンが少ないですが、テーマになっている「水」と「歌」が綺麗に合わさって表現できれば、アクション漫画と同じくらい見せ場のある作品になるかと思って。歌っているときの風が流れる感じや、水の中に届く音の流れを意識しながらチヨコの歌を表現しました。

ーー歌うチヨコさんの背後に描かれた目の描写が印象に残っています。

シシカバ:チヨコが歌うシーンは、大勢の前で発表するときの緊張やプレッシャーをファンタジー的に、わかりやすく表現することを意識しながら描きました。歌には第一声だけで周りの目や、その場の空気を変えることができる力があると思います。トラウマでもあった大勢の視線を光らせることで、脚光を浴びる様子、歌の持つ力を表現できればと思っていました。

ーーシシカバさんの描く作品は個人と個人の、2人の濃い関係が描かれる作品が多いと感じています。

シシカバ:そうですね、基本的には2人をメインに描く読み切り作品が多いです。心が落ち込んだり、トラウマを抱えている人物が、自分と違う性格・環境の人物と出会い、どう成長していくかーー。そんな物語を描きたいからだと思います。

 登場人物の行動が成功であっても失敗だとしても、その人の悩みが100%解消されなくても、1%でいいから、ちょっとだけハッピーになればいい。誰かとの出会いをきっかけに、ほんの少しでも成長・変化するものを描いていきたいと思っています。

ーーそのような物語を描きたいと思う背景は?

シシカバ:人ってそんなに大成功することはないと思っているからです。ちょっと声を出しただけでほんの少し人生が変わるとか、ちょっと何かしただけで気持ちが変わるーー。そんな物語を描くことで、読者の気持ちがちょっとでも、ふわっと上がったらいいなと思います。

ーー今後の目標を教えてください。

シシカバ:今まで通り、できればもうちょっとペースを上げたいところですが、創作をつづけていきたいと思います。最近は漫画賞にも選ばれたので、商業媒体でデビューできるような作品をつくりたいです。

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