『WIND BREAKER』桜遥は“主人公らしくない主人公”? 新鮮で愛すべきキャラクター性を考察
2021年3月から『マガジンポケット』(講談社)にて連載中の人気漫画『WIND BREAKER』(通称:ウィンブレ)。連載開始当初から新しい形の不良漫画として話題を呼び、2024年4月には待望のアニメ化。“ウィンブレ旋風”は留まることを知らず、息つく間もなくアニメ2期の制作が発表された。
街を守るチーム「防風鈴」の活躍に心を奪われる視聴者は多いが、その中でも目を惹くのはやはり、主人公の桜遥だろう。多くのキャラクターが登場する不良漫画/バトル漫画はサブキャラに人気が集中、あるいは逆に分散し、主人公の影が薄くなってしまうことも少なくないが、本作においてその心配は要らない。なぜなら桜遥は少年漫画には珍しいタイプの中心人物であり、内面・ビジュアルともに読者の興味を激しくそそる、新鮮味溢れるキャラクターなのだから。
“熱血主人公”の概念を覆す
少年誌の主人公と言えば、“熱血”が王道だ。アツくて正義感が強く、素直で真っすぐなキャラクター。例え腕っぷしは強くなくとも、弱点をコミュニケーション能力や愛嬌でカバーするのもありがちな設定ではないだろうか。桜遥は、そうした熱血主人公とは違う。人との関わりが苦手で、集団に溶け込むことに違和感を覚えるちょっと変わった人物だ。
心の中は常に燃えており、正義感に溢れた格好いい男なのだが、過去が災いして一匹狼になりたがる。一筋縄ではいかない尖り方をしているため、ありがちな主人公像を見慣れた読者からすると新鮮味を感じられる存在だろう。
熱血すぎてたまにドジをするタイプの不器用ではなく、人とどう接したらいいのか分からない本気の不器用なので、やはり一般的な主人公タイプでないことは確か。喧嘩の腕は一人前なのに、それ以外の能力が欠けている点が面白い。
多くの漫画がそうであるように、本作も「主人公の成長物語」だといえる。そんななかで、遥は“足りない部分”を単純に腕っぷしでカバーするのではなく、「ただ強い力を手に入れることが成長ではない」ことを教えてくれる。だからこそ、読者は彼から目が離せなくなる。
自分自身への苛立ちが成長の第一歩
遥が風鈴高校に馴染んでいくまでには、時間が掛かる。「防風鈴」のメンバーは全員優しく、遥自身もトップの梅宮一に出会って心を打たれるが、人間はそう簡単に変われない。詳しいエピソードはまだ明かされていないが、痛ましい過去を持つからこそ全てをオープンにするのもためらいがある。正直なところ、アニメ1期の「獅子頭連編」では、桜遥が僅かな一歩を踏み出したに過ぎない。
徐々に仲間意識が芽生え、己の実力不足を自覚していく。様々な人と出会うたびに凍てついた感情がゆっくりと溶けていくため、梅宮だけではなく2年級長の梶からも大きな影響を受けたことだろう。遥は不器用ながらも、「腹が立つ」という感情から、心の底に浮かんだ本音を自身の手で紐解いた。そう、真の怒りの矛先は自分の不甲斐なさであり、弱さで周囲を巻き込む現実が悔しくてたまらなかったのだ。
風鈴高校に入りたての彼だったら、「負けて悔しい」以外の感情が芽生えただろうか。誰かを守るやら、自分のせいであいつらが……と本気で思えるようになったのは、立派な成長の証。獅子頭連編後のKEEL編ではひと皮むけた彼が見られるので、ファン必見の回と言える。