カルト的人気のファンタジーアクション『ローゼンガーテン・サーガ』はなぜ“王道”なのか? 人と楽しみを共有できない衝撃作を読み解く

『ローゼンガーテン・サーガ』はなぜ“王道”なのか

 マンガ・ライトノベル・アニメなど、様々なエンタメで多くの名作が生み出されてきた「ファンタジーアクション」。キャラクターや武器、戦闘の現実にはないカッコよさは、多くのファンの間で語り合われてきた。しかし。カルト的な人気を博しながらも、なぜか人とその楽しさを共有しづらいと言われている作品があるーー2020年8月に創刊したコミックレーベル「わいるどヒーローズ」の第1弾タイトルとしてスタートした英雄譚『ローゼンガーテン・サーガ』( 原作:富士防人/作画:外岡馬骨)だ。

王道のアクション&英雄譚たる所以

 公式の説明によれば、『ローゼンガーテン・サーガ』は剣と魔法の「王道アクション」だという。

 家族がおらず、孤独を恐れるあまり見栄を張り、嘘をついて周囲の注目を集めてきた少女・リン。ある日、野盗に村を襲われ命からがら逃げ出した彼女は、「友人たちを見捨ててしまった」という自己嫌悪のなか、森で英雄・ジークフリートを宿す剣を手にする。「これ以上カッコ悪い女になりたくない」という決意に呼応するように、ジークフリートが力を与え、リンと彼女が切り裂いた野盗たちの身体にある異変が。卑劣漢たちを蹂躙し返したリンの旅が、いま始まる――。

  と、確かに「王道」といえる冒頭のあらすじだ。その後、多くの強者が登場し、王族が見守る「薔薇園武闘会(ローゼンガーテン・シュラハト)」で力を競う展開に。「人」「物」「金」の3コースからなる予選を経て、個人戦/チーム戦の激しいバトルへ――。そのなかで、不遇な主人公は戦い続け、仲間を得て、困惑し、開き直り、感情を爆発させながら“カッコいい女”に成長していく。『ローゼンガーテン・サーガ』はこのように、持たざる者が成り上がる王道のサクセスストーリーだ。

 また、それぞれに個性的でパワフルな英雄たちの戦いを描く作品でもある。剣に宿ったジークフリートをはじめ、リンが憧れを抱く隣国ブルングルト王国の美しきブリュンヒルデ王妃、ある理由でリンに心酔する強者・ベルン国の王子ディエトリーヒ、“最強の王”として知られるイェーターランド国王兼総大将・ベオウルフなど、一見して“ヤバさ”が伝わる猛者ぞろいだ。ネーミングにもやはり、ハイ・ファンタジー的な王道感があり、どんなキャラクターか想像しやすいだろう。

それでもファンが声をひそめるのは……

 このように、物語には確かに「王道」といえる強度があり、1月29日にはコミックス最新9巻が発売される人気作にもかかわらず、なぜか『ローゼンガーテン・サーガ』についてまとめたWikipediaの記事は存在せず、書評やコラムもほとんど見かけない。ではどこで、カルト的人気が見られるのか。同作のファンはネット掲示板やYouTube動画のコメント欄、SNSで、熱量たっぷりに本作について語り合っているのだ。声をひそめながら……。

 その理由はひとえに、登場人物たちの変態性による。性的嗜好と興奮が英雄的強さに直結するような世界観が、百花繚乱のファンタジー作品に少し食傷気味だった読者のド肝を抜き、唯一無二の作品として人気を定着させたのではないだろうか。一話目から文字にはできないとんでもない展開になっているが、ただ“下品”と断ずることなかれ。考えてみれば「神話」の世界こそえげつなく、神々の欲深さや残酷さに打ちのめされる、エロティックで理不尽なエピソードが多いではないか。その意味でも、やはり『ローゼンガーテン・サーガ』は「王道」なのだ。

 逆にいうと、無視して読み進めるにはあまりに「ポロリ」が多すぎる作品だが、確かな熱さと王道的カタルシスがあるのは間違いない。風雲急を告げる第10巻の発売に合わせて、まずは第一話から読み進めてみてはいかがだろう。

■『ローゼンガーテン・サーガ』第1話はこちら
https://viewer.heros-web.com/episode/13933686331695930330

■最新刊はこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/4864682577
©富士防人 外岡馬骨 / ヒーローズ

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