【漫画】人に知られてはいけない秘密を共有した、二人の少女ーーひと夏の物語『ラストサマー・バケーション』が切ない

ヤングケアラーに興味を持った

――東洋さんにとっての商業誌での初連載となった『ラストサマー・バケーション』ですが、誕生の経緯を教えてください。

東洋:制作に取り掛かる前段階で、「どんな話を描けばいいんでしょう」と打ち合わせする中、 担当編集さんとから“ヤングケアラー”という言葉が出ました。当時は恥ずかしながらヤングケアラーを知らなかったのですが、そこから私が興味を持ったことが始まりです。

――そこからは順調に連載がスタートしたのですか?

東洋:順調ではなかったです。「この路線で行くぞ」と決めてからは、ボツを食らってやり直したり、ヤングケアラーについて調べたりなど結構時間を要しました。連載が決定するまでは半年ぐらいかかっています。

――切実な問題、血生臭い事件とともに、刹那を生きる少女たちの不思議な輝きが感じられる作品です。ストーリーはどのようにして描いたのですか?

東洋:まず「2人の少女が出会い、そして逃げ出す」という展開は初期の段階から決まっていました。構想を練り始めた段階では、実は2人が前向きに進んでいく様子を描くラストは予定していなかったんですよね。ただ、担当編集さんとの話し合いで「ちゃんと救いのあるラストにしよう」と方向性に変更しました。ちなみに、夏を選んだ理由としては、“夏特有の二面性”が好きだからです。

―― 夏特有の二面性とは?

東洋:同じ夏でも、焼けるコンクリートの上をスーツ着て歩いてると「地獄のようだ」と感じます。その一方で、冷えたビールを飲みながら広大な海を眺めていると「ここは天国だ」なんて思えますよね。

――確かに春や秋などにはない二面性がありますね。また、なぜ熊本県を舞台にしたのですか?

東洋:美月と海野の2人は沖縄を目指すのですが、飛行機を使ってほしくなくて……。バイクやフェリーなどを使って、苦労してたどり着いて欲しかったんです。その丁度良い場所が熊本だったので。

水族館のシーン誕生のワケ

――本作の2人の主人公、海野と美月はどのように作り上げましたか?

東洋:まず美月のキャラデザインには苦労しました。「クラスの中で一番可愛い」というイメージで色々考えました。最終的に落ち着いたのがアレです。一方、海野はなんでかわかんないけどすんなり出てきてすんなり決まりました。なんか適当ですいません……。(汗)

――海野と美月はどちらも厳しい家庭環境に育ちました。2人の家族関係を描く際に意識したことは?

東洋:海野と美月、それぞれの性格と家庭環境にある程度の関連性が見出せるように意識しました。ただ、人の性格が家庭で全て決まるわけではないと思うので、ある程度は意識した感じです。

――ふたりとも、いわば“毒親”に育てられたながら、対照的なキャラクターに育っていますね。描いていて難しくありませんでしたか。

東洋:対照的な感情の中に共通性を見出すことが難しかったです。意見の食い違いで喧嘩させるのは簡単ですが、「じゃあ2人がお互い惹かれあうキッカケになった部分って何なんだろう」と探ることには苦労しました。

――5話で水族館を訪れた際、イルカやウミガメの“育児方針”を知る中で、2人の家族観のコントラストが描かれました。最初からこのシーンを入れることはイメージしていたのですか?

東洋:そのシーンは5話のネームを考えてる段階で初めて思いつきました。思いついたというよりは、資料を調べてる過程でイルカの独特の育児方針を知り、「これは使えるな」と。

――愛情とも友情とも解釈できる、ふたりの絶妙な距離感が印象的でした。

東洋:言葉で説明しようとすると難しいのですが、恋心を炎の赤で、友情を空の青で例えるとしたら、私は紫色が好きなんです。赤っぽい紫だと個人的にベストです! 「この距離感いいよね」と読者さんにも伝わればと思って描きました。

――ちなみに海野は「東洋動物専門学校」に進学します。この学校名にした背景は?

東洋:自分のペンネームを、作品に登場する背景や施設名に入れ込むことは、漫画家の憧れです! それで採用しました。

――最後に『ラストサマー・バケーション』をどう楽しんでほしいですか?

東洋:どういう楽しみ方をしてもらっても構いません。ただ、強いて言うなら、海野や美月の幸せな未来を願いながら読んでもらえると嬉しいです!

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる