『美味しんぼ』最も”迷言”の多いキャラ、富井副部長が”クビ”にならないのはなぜ?

 『美味しんぼ』で最も「やらかし」が多い登場人物といえば、富井副部長だろう。東西新聞社という大企業に勤務していながら常識を欠いたとんでもない行動に出て、上司や部下を呆れさせている。

  大原社主や小泉局長から「お前はクビだ」「辞表をもってこい」と罵倒される富井副部長だが、そのたびに奇跡の生還を果たしている。今回はそんな富井副部長の「迷言」を振り返ってみたい。

「BSEが怖くて衛星放送が見られるかってんだ」

  居酒屋で牛皿を注文し、売り切れていたことに激怒する富井。店員が「BSE事件以降、牛肉の輸入がすぐに品切れになってしまう」と理由を話す。さらにたまたま店にアメリカの牛肉輸入に賛成・反対の人物が集結しており、議論が繰り広げられる。

  そんななか悪酔いした富井副部長はなんと居酒屋のテーブルに立ち上がると「牛皿を食わせろなんて言った私が悪うござんしたね、バーロイ。BSEが怖くて衛星放送が見られるかってえんだ」と発言。山岡は富井副部長を止めることなく、「そりゃBS」と笑っていた。

  奔放発言に加え子牛音頭を歌いながら食べ物を投げつけた富井副部長に激怒した論客たちは激怒し、帝都新聞に「東西新聞社の無知と無定見」と書き立てられてしまった。居酒屋で大暴れするだけでも懲戒案件だが、ライバル会社に醜態を晒しその様子を書かれたとなれば、クビか左遷は免れないであろう。

  実際に小泉局長も激怒するのだが、ここで聖人君子の谷村局次長が「BSEをきちんと教えることで我が社が大事な問題を茶化すような会社でないことを明らかにします」とフォロー。小泉局長もなぜか納得してしまい、首が繋がった。

「酒っつうのは昼でも夜でも酔っ払うのだよ。酔っ払わない酒があるなら持って来い」

  富井の昇進を検討するため文化部を訪れた小泉局長。しかし富井はまたも昇進できず同期と差をつけられと勘違いし、ヤケ酒を飲み泥酔する。そして応接室にいた局長が「酔っ払っているな? 昼間からどうしたと言うんだ」と激怒すると、「何をバカのこと言ってんだろね、このタコは!酒っつうのは昼でも夜でも酔っ払うのだよ。酔っ払わない酒があるなら持って来い!」と啖呵を切る。

  さらに富井は小泉局長の胸ぐらをつかむなどして大暴れし、「お前みたいな男は昇進撤回!それだけじゃ収まらん!クビだ!」と怒鳴られてしまった。

  山岡も「今度という今度こともうダメだね」と突き放すが、なぜか文化部の女性陣は同情的。結局今回もさまざまな人のとりなしで、クビを免れることになった。恐るべき人徳である。

「インフレ麻雀で初心者がドラと裏ドラだけで満貫を達成したようなもの」

  栗田ゆう子が文化部メンバーで釣りをした際、鯛を釣り上げるという手柄を立てる。すると富井は「何こっちだって釣ったのは1人で、それも浮袋のおかげですからな。ま、いわばインフレ麻雀で初心者がドラと裏ドラだけで満貫を達成したようなもんですよ」と軽口を叩いて笑う。

  麻雀用語だけに意味を理解できない栗田が「どういう意味ですか?」と荒川(田畑)に質問。荒川が「ただのまぐれってことよ」と説明すると、気の強い栗田は「副部長、おっしゃいましたわね。この鯛を釣り宿に戻ってみんなで食べようと思うけど、副部長だけその養殖の鯛で我慢してもらいましょう」と怒りをあらわにする。

  すると「わーわーそりゃないよ! 栗田くん君は釣りの天才!大名人!まぐれなんかじゃないって」と食い気のために慌てて自分の発言を修正した。

なぜクビにならないのか

  3つのエピソードを見ても、富井副部長はクビ、もしくは部下に忌み嫌われる存在になるのが、妥当と言わざるを得ない。

  ところが問題が起こるたびに上司の谷村部長や山岡以下文化部メンバーに守られ、とりなしてもらえている。その要因はどこにあるのだろうか。

  1つには富井副部長が実はかなり仕事ができる人物であることが挙げられる。新聞記者として良い記事を提供し続けていなければ、出世もできないであろう。ただし16巻では人間国宝が描いた絵の写真を逆に掲載してしまったこともあった。

  もう1つの理由は素直であること。やらかしのあとはきっちり謝罪し、「自分が責任を取る」と辞表を書くことが何度もあった。そんな素直な心が、富井副部長が最終的に文化部部長代理に昇進した理由かもしれない。

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