【ウェブ漫画】離婚、理解のない職場……弱るヒロインに近づく男は悪人か 『私が誰だかわかりましたか?』が突きつける現実

『私が誰だかわかりましたか?』レビュー

  人生は長い。時に人は、予想外の事態に直面する。若いころに思い描いていた人生計画が破綻した人は決して少なくない。むしろ思いどおりの人生を歩む人のほうが少数派だろう。しかし「自分だけじゃない」と思っても、苦悩が消えないこともある。

 本来は弱っているときこそ大きな決断をひかえ、新しい人との出会いをシャットダウンしなければならない。世の中には弱みにつけこむ人が非常に多いからだ。また好奇心から、相手への慰めのつもりで心ない言葉を投げかける人もいる。

 すべてを乗り越える力の尽きた女性を描くコミックエッセイ『私が誰だかわかりましたか?』(やまもとりえ/KADOKAWA)は、非常に生々しい現実を私たちに突き付ける。

「もっと大変な人もいるんだからさー」

 悩み相談の返答でよくある言葉だ。言葉を放った人は、自分自身が落ち込んでいる時にそのように励まされたら、どんな感情を抱くのか想像したことがあるだろうか。

 どんなに苦しい目に遭い、ピンチに陥って「日本一大変な人」になっても、世界規模で考えれば、戦争をしている国で生きる子どもや、女性が働くことすら許されない国で奮闘する女性など、自分より大変な人はたくさんいる。

 ただそういった人たちと自分を比べて、「ああ、私はまだましだわ」と思って安心する人がいたら、人間性を疑ってしまう。「もっと大変な人がいる」という言葉は慰めでもなんでもなく、他の人と不幸比べをしろと言っているようなものなのだ。

 『私が誰だかわかりましたか?』の主人公である海野サチは、序盤からこの言葉で友人に励まされる。

 彼女は42歳の女性で、つい先日、離婚してシングルマザーになったばかりだ。友達に話を聞いてもらって気持ちを切りかえるつもりだった。しかし彼女たちにとって「自分たちの中にバツイチが出た」という話題は日常生活のスパイスのようなものであり、サチに共感をしているふりをしているのはたしかだ。

 元気になるために会ったのに、逆に傷ついてしまったサチが家に帰ると、息子は反抗期でサチが子どもを養うためにどれほど苦労しているかをまだ理解できる年齢ではない。サチは息子を養うために仕事に没頭する。しかし同僚にも彼女の理解者はいなかった。

 友人、息子、同僚。人間関係すべてに疲弊した時、すがれるものがほしくなる人は多い。しかもサチは離婚したばかりである。

 筆者にも離婚経験があるが、そのストレスは人生の中でもかなり大きく、離婚直後は心身ともにボロボロになる。今の状況から救ってほしいと願うが、その気持ちが幸せにつながることはごくわずかだ。

 サチが同世代のバツイチ男性、川上樹に惹かれたのは必然的なことだった。後輩に誘われた他社のイベントで出会ったが、それはきっかけにすぎず、頼る人のいないサチは川上のような男性に遅かれ早かれ出会っていたのではないかと私は考えている。

 そして同じ女性として思うのは、孤独感を抱いている女性は、時として恋愛対象を見定める目がにぶっている。完全に自信を失っているのだ。

 甘い言葉を投げかける男性、誠実そうな男性、連絡すればすぐに返信をくれる男性……近づく男性のタイプはさまざまである。川上にとってのサチはどんな存在なのだろうか。

 サチは彼と毎日メールするようになるのだが、だんだんと違和感を抱き始める。前の夫との離婚理由、川上との不思議な関係など、無料部分だけでも濃い漫画だ。本作は「レタスクラブ」で独占先行配信中。まずは読み始めてみてほしい。

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