『ドラゴンボール』鳥山明を“おじっさ”呼ばわり 漫画家と読者の”蜜月”を考える
鳥山明は『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』など、数々の傑作を生みだしてきた漫画家である。そして読者サービスに旺盛な漫画家で、『Dr.スランプ』の連載時は「徹子の部屋」に出演したり、単行本の中でも積極的にプライベートを披露するなど、かなり顔出しをしていた。もっともこれは、編集の鳥嶋和彦に言われて行ったらしいのだが。
とにかく鳥山は大ヒット漫画家でありながら、単行本のコラムを読むと、積極的に自身の身近なネタを発信し続けており、読者との距離が近い印象を受ける漫画家だった。何しろ、手塚治虫のように自身が漫画に登場していたり、アシスタントもキャラクター化していたほどであった。
そんな鳥山は読者との交流も熱心に行っていた。単行本の巻末に、『Dr.スランプ』では「とりやま放送局」、『ドラゴンボール』には「とりやまさんのドラゴンボールなんでもかんでもコーナー」という読者投稿ページがあった。読者のハガキを募集しており、鳥山に向けて漫画の質問から人生相談、身近に起きたことまで、どんなことでもぶつけることができた。今でいえば、TwitterやYouTubeで作者と交流するような、そんな感覚だったかもしれない。
しかし、いつの時代も羽目を外すファンはいるもので、鳥山を「鳥山おじっさ」などと呼んだり、呼び捨てにする読者が増えるようになった。単行本を読み返すと、だんだん読者のコメントもエスカレートし、鳥山の髪の毛が薄くなっていることまでネタにされるようになった。当時、容姿いじりはテレビ番組でも鉄板ネタだったものの、今では炎上しかねないネタが普通に作者にぶつけられ、しかも単行本に掲載されていたのだから、驚いてしまう。
最初は鳥山もネタとして見ていたのか、だいぶ寛容だった。ところが、さすがにあまりにひどいハガキが多かったようで、ついには『Dr.スランプ』の単行本上で苦言を呈してしまった。鳥山の言葉を借りれば、「わしを尊敬しておらんだろ!」というわけである。そして、「鳥山先生」と書かれるなど、言葉遣いが丁寧なハガキを中心に選んだら、「ほとんど残らなかった」そうである。それでも、送ってくれないよりはいいと言うのだから、鳥山の優しさが身に染みてしまう。
もっとも、当時のジャンプの読者層は小学生が中心だし、単行本を買うのも子供たちが多かっただろうから、仕方ない面もあるだろう。しかし、漫画家と読者の付き合い方、交流の仕方はどうあるべきなのか。考えるきっかけにはなるのではないか。
それにしても、このとき鳥山を“おじっさ”呼ばわりしていた読者も、今では50代以上、60歳を超えているかもしれない。世界の漫画界の巨匠となった鳥山の姿を見て、どう感じているのか、気になるところだ。今となっては貴重な体験と言えるかもしれないが、壮大な若気の至りなのではないだろうか。