『はだしのゲン』なぜ読み継がれるのか 際立つのは”ストーリー”と”セリフ”の秀逸さ
G7サミットが広島で開催され、原爆ドームに各国首脳が訪れて話題となっている。中沢啓治の漫画『はだしのゲン』は当時の戦争の悲惨さを伝えてくれているが、なぜこれほどまでに読み継がれているのだろうか。もちろんそれは教育的な観点からでもあるが、なんといっても『はだしのゲン』は純粋にストーリーが秀逸なのだ。漫画はどんなに立派なことを描いていようと、面白くなければ読まれない。『はだしのゲン』はテンポのよいストーリー展開、そして中岡元(ゲン)は熱血キャラで感情移入しやすいのが魅力である。読み進めるうちに、「ゲンがんばれ!」と応援したくなる、少年漫画の王道をゆくキャラクターなのだ。
『はだしのゲン』が語られるとき、戦争の愚かさを伝える内容が描かれた平和教材としての一面がクローズアップされる。もちろんそれは正しい。平和教材としてこれほどふさわしい漫画はないだろう。
一方で、ゲンが戦う喧嘩のシーンや、中盤で隆太が賭場荒らしをするシーンなどは少年漫画らしい迫力満点の描写で、手に汗握って読んでしまう。また、ところどころに挟まれるギャグも実に秀逸なのだ。ファンはよく知っているように、作中には下ネタも結構多く、つい笑ってしまうシーンも多いのである。
キャラクターも個性的だ。特に、悪役のインパクトが強すぎる。ゲン一家をいじめた作中屈指の悪役の鮫島伝次郎を筆頭に、ゲンとお母さんをいじめて最後に肥えだめに落ちる林家のばあさん、朝鮮戦争で巨万の富を得て歯をすべて金歯に入れ替えた成金など、一癖も二癖もあるキャラばかりである。
そして、全編を通して言えることだが、中沢のインパクト抜群な絵と、これまたインパクト抜群のセリフが素晴らしいのだ。ネットで有名になっているセリフも多い。いくつか紹介しよう。
「ギギギギ・・・」
「うわーーーん」
「くやしいのう くやしいのう」
「朴です」
「元 おまえは麦になれ」
「オ ナイスデザイン」
コマの画像を載せることができないのが残念だが、ファンなら、作中のコマが浮かんでくるはずである。なかでも「ギギギ・・・」「うわーーーん」は作中に何度も登場する『はだしのゲン』を象徴するセリフである。
また、『はだしのゲン』といえば広島弁である。広島出身の記者の友人が言うには、さすがに現在ではあれほど強烈な広島弁を話す人はほとんどいないそうだが、『はだしのゲン』をきっかけに親しんだ読者も多いのではないだろうか。
『はだしのゲン』の内容については、何年かに一度、賛否両論様々な議論が巻き起こる。いろいろな意見があるものの、繰り返すようだが『はだしのゲン』は純粋に漫画として面白く、少年漫画の傑作であることは間違いない。ぜひ一度読んでみてほしい。