【漫画】ずっと雨の日が続けばいいのに……なにげない日常を豊かに描くSNS漫画に共感
ーー日常にあふれる音や温度の存在を感じた作品でした。創作のきっかけを教えてください。
こまつのぶこ(以下、こまつ):本作はコミティア(一次創作物の即売会)で出展する合同誌に寄稿した作品です。私はストーリー漫画を描くことが苦手なので、状況を細かく描き、雰囲気そのものを味わってもらえるものをつくろうと思い本作を創作しました。
また他の作品をつくる際もそうなのですが、本作は日常の中でふっと緩んだ瞬間を切り取ることを意識しながら描きました。
ーーわら紙のようなページの色からも作品の雰囲気を感じました。
こまつ:本作は白色の原稿用紙に描いているので元の画像も白色でした。ただ紙で読んでいるような温かみを感じてほしいと思い下地をクリーム色に編集しています。
漫画を描く際に紙媒体になって作品が完成するという気持ちがあるので、自分の漫画を紙で読んだときに嬉しくなるようなものをイメージしながら創作しています。
ーー紙媒体として作品を完成させることを意識する理由は?
こまつ:小さいころから漫画が好きで、漫画といえば紙という印象がつよくあります。また子どものときに漫画を描こうと何度も挑戦していたのですがなかなか描けなくて。そのため自分の作品を紙に落とし込むということが夢でもありました。その夢を叶えるため紙にこだわりを抱いているのかもしれません。
またデジタルデバイスと紙の本では漫画を読むときに抱く感覚が異なるように感じています。私にとって紙が1番ホッとする存在であり、“作品にあたたかみ”を出したいという気持ちがあるので紙の本として作品をつくることを意識しています。
ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンを教えてください。
こまつ:食べ物を盛り付けるシーンやお皿に載っている食べ物など、食べ物が登場するシーンは描いていて楽しかったです。
食卓には悲喜こもごもが込められているように感じていて、ただ食べているだけでもその時々には感情の移ろいがあるように感じています。悔しくて涙をこぼしながら食べ物を口にすることもあったり、嬉しくて浮かれてしまい食べることに集中できず箸が進まないこともあったり……。浮き沈みのある毎日の中に食べ物があり、それは悲しさや怒りの存在も含めて豊かだなと思いながら食べ物のシーンを描きました。
ーーこまつさんは本作をはじめ日常にありふれた生活、日常の中で抱く感情を題材とした作品を多く発表しているかと思います。
こまつ:嫌なことがあったときは過去や未来に思いを寄せすぎてしまい、今が欠落しているような感じがするんです。今いるその場には豊かなものが存在しているはずなのに、過去の失敗や未来への不安に囚われてしまう。そんな状況を抜け出せたのは料理をしたり掃除をしたりなど、今に集中できていたときで……。
時間が経てば再び嫌なことを思い出してしまうとは思いますが、お風呂を洗ったりご飯をつくっているときは今に集中できる。それってすごくいいなと思っていて、面白いことが広がっている日常に集中することを表現したいと思い、日常を題材とした作品をつくっています。
ーー作中では日常にあるさまざまな音の存在も際立っていると感じました。
こまつ:音楽アーティスト・くるりの楽曲であり、スプーンで叩く音や紙をちぎる音で大部分が構成されている「ハワイ・サーティーン」が好きで、紙をビリビリと破いている音なのに不思議と心地よく感じます。私も身近な音で生み出す心地よさを表現できないかと考え、日常にある生活音を拾い上げて作品に落とし込みました。
ひとりで寝ているときに外から車が通る音が聞こえると少しホッとする。そんな体験から音と感情はどこかでつながっているように感じていて、私にとって日常にある音は大切なものなのだと思っています。
ーー今後の活動について教えてください。
こまつ:来年を目途に日常的な小さな幸せを集めた漫画をまとまったかたちで世に出せたらいいなと思っています。その漫画はSNSにも投稿する予定なので、見ていただけたら嬉しいです。
生活している人を自分なりに豊かに描けるよう、これからも努力していきたいです。