【漫画】夜逃げ屋の仕事の実態とは? “ほぼ実話”のルポ漫画が話題
――本作はマンガとしてだけでなく、夜逃げ屋のドキュメンタリーとしても読み応えのある内容です。読者の反響をどう見ていますか?
宮野:DVや虐待、二世信者などのダークな社会問題も扱いますし、いいねが伸びない作品だと思っていました。でも結果的に1話目だけで10000いいねに達し、感想も多くいただいて、ありがたいです。僕はもともと原作者志望だったので、絵については素人同然ですから「カメレオンの等身どうなってるんだよ!」という批判も覚悟してましたが(笑)、温かいコメントばかり。これには驚きと感動です。
――どれくらいの期間「夜逃げ屋」の仕事をされているのか、そして印象に残っている依頼があったら教えてください。
宮野:もう関わって6~7年になりました。印象的だった依頼はたくさんありますが、僕のリアルな友達がメンヘラ彼女を苦に夜逃げしたことは忘れられません(笑)。漫画にする承諾も得ているので、そのエピソードもいずれ描く予定です。
――楽しみにしています。ちなみに「ほぼ実話」とのことですが、どこが脚色されているのでしょう。
宮野:まず「読者さんに伝わりやすいかどうか」があります。例えば第2話で依頼者の家に入った時に警察官が二名いますが、実際は男女の刑事でした。でも刑事はスーツ姿だったので、よりイメージしやすい警察官に変更しています。今後は依頼者の特定を避けるために、人物の性別を変えるということもあるかもしれません。
――そもそもTwitterに漫画を上げ始めた経緯は?
宮野:第1話にも書きましたが、最初は商業誌での連載を目指して、とある編集部に何作も持ち込んでいました。それに疲れて、Twitterに投稿するようにしたんですね。その紆余曲折もいずれ漫画にする予定です。「3回持ち込んで担当編集が付かないなら辞めた方がいい」という世界ですし、同世代で鮮烈なデビューを飾っている人もいますし、「自分に商業作家の才能がない」ということは理解できました。
――これまで描いてきた過去の漫画も社会派な内容?
宮野:まったく違いましたね。もともと「週刊少年ジャンプ」が大好きだったので、ああいうキラキラしたバトルものや野球、バスケものを描いていました。今見ると恥ずかしくて読めません(笑)。描きたい作品と描ける作品は違うということかもしれませんが、結果的に今は「これを描きたい」と思って取り組めています。それに加えて読者さんの方にも喜んでもらえているというのは、これ以上ない幸せですね。
――「才能がない」と思いながらも続けてきた結果が今なんですね。
宮野:確かに続けた結果として今があるのは事実ですし、粘り強さも必要です。でも実際に夢を追って音信不通になってしまった友達もいますし、僕は軽々しく「夢を諦めるな」とは言えません。それで人生を狂わせるくらいなら、そこから「夜逃げ」するのも恥ずかしいことではないと思うんですよ。
僕は強烈に運がよかった。描こうと思っても手が動かない時期は本当に辛くて、まさに「社会に受け入れられていない」という状況でした。でも友達だったり、夜逃げ屋の社長だったりスタッフさんが支えてくれたおかげで、この漫画を描けています。
――少年漫画から「夜逃げ」して、今の道を見出した宮野さんならではの意見ですね。影響を受けた作家についても教えてください。
宮野:影響を受けているかはわかりませんが、人類史上最高のマンガは『進撃の巨人』だと思ってます。あれを超える作品はないと信じるくらい好きですね。あと最近だと刺さったのは、カネコアツシさんの『EVOL』。心の描写が本当にすごくて。いつでも読めるように電子、人に読ませるために紙でも集めています(笑)。僕もあんな表現ができたらと思って書いているところもあるんですよ。
――これから本作でどんなことを描きたいですか。
宮野:まだ未登場の夜逃げ屋スタッフが4、5人いるので、彼らの姿をバックボーンまで含めてしっかり描けたらと思ってます。社長は「100人いたら100通りの夜逃げがある」とよく仰ってます。依頼理由が同じDVでも、依頼者さんも老若男女みんな違う、一人一人が別の人間ですから、それぞれにそれぞれの悩みがあり、それを読者さんが理解できるように表現していくのは自分にとってチャレンジですね。絵についても、下手だからと匙を投げず、最大限、皆さんに伝わるように努力していこうと思っています。