【漫画】髪を伸ばした男子生徒、クラスの反応は……"らしさ”の圧力と人の優しさを描いた漫画がTwitterで話題に

「誰かが求めている答えになりたい」

――優しく、しかし鋭く心に刺さる作品でした。現在の制作環境を教えてください。

金田力金男さん(以下、金田力):普段は仕事の合間に制作しております。年に1~2回創作漫画をイベントで発表することを目標に活動しています。

――漫画制作を始めたキッカケを何ですか?

金田力:小さいころから絵を描くのが好きでしたが、同時に読書も好きでした。漫画に限らず、小説、自伝、コラム、詩集、哲学書など、分野に関係なく本に触れてきました。

――ジャンルレスで読んでいたんですね。

金田力:はい。よく自分と他者の違いに悩むことがあるのですが、いつも私に答えを示してくれたのが本の言葉でした。そういった経験から、私も「誰かが求めている答えになりたい」と思い立ちました。その時、「視覚情報に訴えることが最もわかりやすく他者に伝わる」と考え、その上で絵を描くのが得意だったため漫画制作を始めました。

「ルール」と「個人の権利」の間で

――『夏休み明けに髪を伸ばしてきた男子生徒と、そのクラスメイトたちの話』の制作にまつわる経緯を教えてください。

金田力:制作を開始したのは2020年です。前職がお堅い職業で、頭髪の細かな規定がありました。もちろん、それはお相手に好感を与えるためであり、最善を尽くすことは社会人であれば当然です。しかし、「個人の権利はどうなのか?」という疑問が芽生えるようになりました。

――“なんとなく”続いてきたルールに違和感を持ったのですね。

金田力:はい。この違和感を作品にしようと思い立った際、“頭髪の規定”を軸に考えると校則が真っ先に頭に浮かびました。一応、校則を遵守することは、「制服を着ている限り、学校の生徒代表である」ということを自覚させる機会を与えているため、「社会人として身だしなみをキチンと整えなければいけない」ということを浸透させる準備期間と言えますよね。

――とは言え、時代も変わっていくなかで「ルールだから」というトートロジーで継続している部分もあるきがします。

金田力:そうですね。そもそも個人が権利を主張するのは悪いことではないですし、企業や学校も個人の権利を尊重する必要があります。しかし、規定やルールを守る必要は当然あり、「この二律背反を考え直すキッカケになれば」と考えて制作しました。ただ、途中まで制作したのですが、「漫画の最後をどのような方向へ落そうか?」と悩んでしまい、気が付けば完結に1年以上かかりました……。

「○○らしさ」に苦しんだ過去

――あらためて、本作において意識したポイントを教えてください。

金田力:特に意識したのはオダワラを美しく描くことです。反対に主人公のユイは目立たない顔つきになるよう心掛け、彼の姿がより印象に残るようにしました。

――確かに両者のコントラストが明確に描かれていましたね。

金田力:人間は“美しい弱者”を無意識に庇ってしまいます。読み手の中には、途中まで「オダワラ=陰口を言われる可哀そうな少年」と思った人も多いのではないでしょうか。ただ、派手で模範的ではないトツカからすれば「オダワラ=憎い先生から特別扱いされている悪」になります。立場によって人の見え方は変わるため、各登場人物の視点に立ちながら読んでいただけると嬉しいです。

――男らしさ・女らしさを軸に展開されていますが、金田力さんも「○○らしさ」に苦しんだ経験はあるのですか?

金田力:私は男性コミュニティのほうが過ごしやすく、子供のころは男友達と取っ組み合いのケンカをよくしていました。しかし、自認している性別は女性です。作中の「女の子だったらそうあるべき」というセリフは私もよく言われましたし、「なぜ自分は女性のはずなのに女性らしくないのか?」「性同一性障害なのか?」と悩んだ時期もありました。しかし、大人になっていく中で、そういった悩みを持った人はたくさんおり、「自分だけじゃないんだ」とわかった時、安心して自分を“女性”として認めることができました。

――読めば読むほど様々なメッセージを感じます。金田力さんが本作で伝えたかったことは何ですか?

金田力:「勧善懲悪で済む問題は存在しないこと」「個人個人は当たり前のように違っており、それを互いが理解し合うのは難しいこと」です。極端なことを言うと、大体の人がゴキブリが嫌いですよね。見かけたら血相を変えて殺そうとする人も多いでしょう。しかし、ゴキブリの立場からすれば、自分たちの住まいを壊し、仲間を理不尽に蹂躙する人間は悪でしかありません。先述しましたが、立場が変われば善悪は反転します。それだけ人間による判断は曖昧であり、それゆえに摩擦が生じてしまう。ですので、「自分と他者は違う」という想像力を持ってもらえるとありがたいです。

――最後に今後の漫画制作における展望をお聞かせください。

金田力:自分の感じたことを伝える手段として、今後も意欲的に創作活動に取り組んでいきたいと思っています。次は2月20日のコミティアにて作品発表予定です。詳しい内容はツイッターで更新しますので、ご興味がある方はぜひチェックしていただければ嬉しいです。

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