さくらももこ『もものかんづめ』が笑いとともに教えてくれたこと みんなが抱える負の感情の肯定

『もものかんづめ』が変えてくれたもの

今だからこそ「まる子」が必要

 『ちびまる子ちゃん』のまる子は、さくらももこを投影したキャラクターだ。性格は、マイペースで怠け者、楽天家だ。漫画家デビューした頃からは寝る間も惜しんで制作活動をしたそうだが、それまでは母親が「情けない」と嘆くほどだったそうだ。

 そんなさくらももこが書いたエッセイは、自分の心に正直だ。正の感情も負の感情も、オブラートに包む事なく直球で綴っている。直球を、笑いという名の魔球にして読者に容赦なく投げつけるのだ。

 筆者はここ数年のSNSをみて思うことがあった。

 少し前は、誰もが憧れる素敵な生活の写真で埋め尽くされていたが、コロナ禍になると、おうち時間を充実させるクリエイティブに溢れる写真に変わった。他者を思いやる思慮深い言葉や、元気付けるポジティブな言葉も並ぶようになった。家族のありがたみを再確認するような言葉も多い。それ自体は悪い事ではないし、筆者も生活のヒントをもらったり、見ず知らずの他人の言葉に共感したり、励まされたりした。

 だが、あまりにもポジティブばかりだと、筆者が80年代90年代に抱いていた「家族円満プレッシャー」のようなものを感じてしまって、自分の中に生まれた負の感情を受け入れられずに悩んでいる人がいるかもしれない。

 『もものかんづめ』には、決して格好つけることのない、人間くささがある。笑いもある。活字の面白さもある。1冊で物足りなければ、『さるのこしかけ』と『たいのおかしら』(共に集英社)という続編もある。

 この記事を書くにあたり、筆者は改めてKindle版を購入した。31年前の作品だが、研ぎ澄まされたセンスとリズムは今読んでも健在だ。活字離れとありのままの感情を持つことに少しでも悩んでいたら、ぜひ手に取ってほしいと思う。



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