なぜ『鬼滅の刃』にここまで人気が集中したのか? 2020年のベストセラーから読み解く

『鬼滅』人気、一極集中の理由は?

新たな出会いが減り、安定・安心志向になった

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、2月28日から春休み前まで全国の小中高に一斉休校の要請が出され、この間、通学帰りに書店に寄る児童・生徒はいなくなった。4月7日に緊急事態宣言が発令され、16日には対象地域を全国に拡大、5月25日に全国で解除されるまでの期間、書店も休業となることが少なくなかった。この時期にはあらゆるメディアがコロナ一色。つまり、本自体もそうだが、コロナ以外の出版物に関する情報も、流通が滞ってしまった。

 12月現在でも多くの大学がオンラインで授業を行い、原則リモートワークまたはミーティングや営業が原則オンラインに移行した企業も少なくない。人びとの移動は減り、通勤・通学の帰り道に、あるいはちょっとした時間つぶしに書店に立ち寄るといったことが減った。

 4、5月にリアル書店が休業になり、オンライン書店も物流の混乱・逼迫の影響を受けて、2月~5月発売の新刊の売れ行きはおおむね鈍くなり、営業再開後には返本ラッシュが発生、以降の刊行ペース・スケジュールについても少なくない版元が「様子を見ながら判断」という雰囲気になった。

 海外からは新作映画(とくに大作)がほとんど入ってこなくなり、春から夏頃まで音楽や舞台などは軒並み延期・中止となった。本に限らず新しいエンタメ、新しい作品の供給量自体が、例年比で著しく減り、人気作品の新陳代謝が滞った。するとそれらの関連出版物の動きも鈍る。

 ここまで見てきたように、コロナの影響によって、新しい作品を目にする機会、手にする機会が減ってしまった。もちろん、収入が減った人も少なくない。するとどうしても安定志向になる。外さない、確実におもしろい/役に立つ/話題についていけるものに需要が集中する。

 これが2020年ベストセラーに2020年発売の新刊が少ない理由、そして『鬼滅』に異常なまでに人気が集中している理由だろう。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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