『ポーの一族』なぜ時を超えて愛され続ける? 長寿の時代に投げかけるメッセージ
人生において「子をなす」ことに重きを置かなければ、パートナーに「生殖能力があること」という条件を求めなくてもいい。若く健康な異性と結婚をしなければいけないというしがらみから解放されます。そしてこの先、別姓や同性婚が可能になる流れは止められないはず。家族という形態の多様化が進んでいます。
ITや医療の技術が進み、あと100年もしないうちに人間の寿命は250歳くらいまで伸びるという説があります。機能の弱った臓器をクローン技術で入れ替え、ナノマシーンが体内の病原体を駆除する。つまり老いを駆逐できるようになるのです。加えてこの少子化。……あれ? そのうち私たち人類(の一部)は、限りなくエドガーたちと近い存在になりそうです。彼らも、深い傷を負えばその生命を終える不老長寿の生命体ですから。
「結婚とは子どもを産み育てることだ」という規範が崩れると、私たちはより、条件ではなく心の繋がりでパートナーを選べるようになるでしょう。エドガーがメリーベルやアランを強く求めたのと同じように。
寿命が250才になるという話をすると、全員が「そんなに長く生きたくない」と言います。私たちは、不老でありたいとは思っても、不死を願ってはいないのですね。でも実際に不老の時代が来たら、果たして私たちはその時、
「…なぜ生きているのかって…… それがわかれば!」
「創るものもなく 生みだすものもなく」
「うつるつぎの世代にたくす遺産もなく」
「長いときをなぜこうして生きているのか」
と、エドガーと同じことを思うのでしょうか。永遠に生き続けることについては、喜びより悲哀が描かれることが多いですね。死は怖いけれど不死は望まない。人間ってなんて複雑なのでしょう。
■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。
■書籍情報
『ポーの一族』
著者:萩尾望都
フラワーコミックス、小学館文庫版などが発売されている。