『浦安鉄筋家族』ギャグを描き続けることの凄さ 『稲中』との違いに見る、浜岡賢次の作家性

『浦安鉄筋家族』ギャグ描き続ける凄さ

 多くのギャグ漫画家が描けなくなっていく中、なぜ浜岡は『浦安』を描き続けられるのか? そこには様々な要因があるが、何より、作者の根底にあるものが“悪意”でなかったことが一番大きいのではないかと思う。

 『浦安』の大枠にあるのが、ドリフ的な計算されたコントバラエティーの世界だということは冒頭に書いたが、その根底にあるのは「この楽しい時間が永遠に続くと信じていた」子供の時の万能感である。

 例えば『あっぱれ!』の第1巻の「14ミャオ☆雨リカ」では、海パン一丁の小鉄がゲリラ豪雨の中、同級生の菊池あかねと帰る姿が描かれる。巻末の作品評には「描いてて新鮮でした」と書かれており、作者もこの話に手応えがあったのか、第5巻の「62ミャオ☆濡毛」でも、シャンプーハットを被った海パンの小鉄がとなりのクラスの鈴ちゃんと学校に行く姿が描かれている。

 あずまきよひこの『よつばと!』(KADOKAWA)を彷彿とさせる子供ならではの世界で、雨の中を楽しそうに走る小鉄の姿は、大人目線で見るとどこか切なくもある。こういう話をベタつかずに描けることが浜岡の強さだ。満ち溢れているのは、世界に対する絶対的な信頼である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『あっぱれ!浦安鉄筋家族』(少年チャンピオン・コミックス)
1〜6巻発売中
著者:浜岡賢次
出版社:株式会社 秋田書店
出版社サイト(1巻)

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