性風俗従事者を休業補償する社会的意義とは? ホワイトハンズ代表、過度な自己責任論に警鐘

性風俗従事者を補償する社会的意義

 水商売の仕事をするシングルマザーの母親のもとで育ち、自身も高校中退後にアルバイトと水商売などで生活。学歴、職歴もないまま24歳まで働き、妊娠が発覚したが父親である男性とは別れて一人で抱えてこんでしまう。話しづらい事情のため市の相談窓口へつながれず、妊娠検査や医療費助成の仕組みも知らず、誰にも相談できないままキャバクラで働き続けた。店長に大きくなったお腹を指摘されても太っただけと押し通し、出産当日まで勤務していたという。重い体を引きずりながら家に帰りベッドに横たわると陣痛が始まった。そんなときでも、彼女が取った行動は救急車を呼ぶことではなくスマホで分娩の方法を調べることだった。陣痛から2時間、たった一人で出産を終えた後も、手足を震わせて泣いている新生児を目の前にどうすればいいかわからない。警察に捕まってしまうかもしれないという極度の不安と混乱の中、妊娠相談を行っている支援団体にメールを送った。一刻を争う状況でも、電話には抵抗があったのだという。

「自己責任論が大きくなると、後ろめたさを抱える人がますます追い詰められてしまう。まずは公的な支援を通して生活を立て直し、それから納税について学ぶ機会を与えられれば、納税者を増やすことにもつながる。これを未来への投資とみなすだけの社会的合意をつくりだしていかなければならない」と坂爪氏はいう。

 実際に「風テラス」に寄せられる納税相談は非常に多い。納税したくないのではなく、納税をしてまっとうに生活したいと考えている人が多いということだ。「風テラス」では、水商売や性風俗で働く女性の確定申告に強い税理士を紹介することも行っている。

「風テラス」公式サイト

 さらに坂爪氏は、性風俗産業の健全化に向けて国に働きかけていきたいと考えている。

「性風俗業者は国や銀行からお金を借りられない。融資や補償の制度から排除されているため、手元の資金を維持するために納税への抵抗感が生じてしまう。その空気を変え、法令を遵守し、納税を適正に行っている性風俗従業者がきちんと融資や補償を受けられるような仕組みになれば、業界全体が健全化し、国が心配する暴力団とのつながりや不正なども起こりにくくなる」

 長い間、声を上げにくかった性風俗産業だが、今回の休業補償では国の方針を変えるまでに至った。世論は確実に変わってきている。

■書籍情報
『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』
坂爪真吾 著
2019年12月17日発売
ページ数:272ページ
定価:880円+税
出版社:集英社

<著者プロフィール>
坂爪真吾(さかつめ・しんご) 
1981年10月21日新潟市生まれ。東京大学文学部卒。2008年、「障害者の性」問題を解決するための非営利組織・ホワイトハンズを設立。新しい「性の公共」を作る、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。

 

 

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