『十二国記』小野不由美の文章はなぜ多くの人を惹きつけるのか? 文芸オタク・三宅香帆が考察

三宅香帆の『十二国記』レビュー

 しかもその厳しい答えを導き出すのは、『十二国記』特有の、中国古典を彷彿とさせる異世界の、政治、戦い、貧困、商業といった側面を描いたあとだ。『十二国記』を読んでいると、まるで中国の史書を読んでいるかのように錯覚するが、それはこの小説の「現代の漢文調」とでも言いたくなる文章が理由だろう。だってこのシリーズを少女小説だと舐めてかかった大人のうち、どれほどの人が最初のページをめくるなり背筋を伸ばしたのだろう? 少なくないはずだ。

 少年少女だけにとどまらない読者が、この、居場所についての物語を夢中になって読む。なぜなら、居場所をめぐる問題は、少女だけじゃない、千三百年前の唐代のひとびとでさえ抱いていた不安だから。私たちは、ずっと『十二国記』の、甘さのない答えに支えられる。むやみやたらと孤独を感じたり、だれかと別れて寂しかったりするとき、王維ではないけれど、詩や小説のひとつでも手に取りたくなる。そんな読者に『十二国記』はきっと読まれ続ける。

■三宅香帆
1994年生まれ。高知県出身。著書に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)、『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)がある。
参考:『人生おたすけ処方本』著者・三宅香帆が語る、ミーハー読書論「文学オタクもアニメオタクと同じ」

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