押見修造が“毒親”描く問題作『血の轍』7巻レビュー 歪んだ母子の絆はますます強固に

押見修造『血の轍』7巻レビュー

押見修造の感情を表わすテクニック

 最後に漫画表現的なことを少しだけ書くが、本作において押見修造は、絵描きとしてひと皮もふた皮もむけたと言っていいだろう。定規を使わずフリーハンドだけで引かれた細かい線の連なりは、「思春期の少年の目から見たあやふやな世界」を見事に表象しているし(だから主人公が動揺すれば線=世界も乱れる!)、人物の表情、特に口元の描写だけで感情を表わすテクニックは、作品全体に異様な緊張感を与えている。そしてなんと言っても、主人公たちが「境界」を越える時に出てくる蝶のイメージ(生と死の象徴か)が鮮烈だ。

 いずれにせよ、本作は現段階ですでに、『さくらの唄』(安達哲)、『甘い水』(松本剛)、『ヒミズ』(古谷実)、『おやすみプンプン』(浅野いにお)といった仄暗い青年漫画の傑作群と同列で語られるべき作品だと言ってよく、今後も巻を重ねるごとにより凄みを増していくことだろう。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『ヤングサンデー』編集部を経て、『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。

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