ロザリア、女性聖人たちの声を代弁する真意とは “身体性”の側面から『LUX』に内包された意思を読み解く

ロザリア『LUX』を“身体性”から読み解く

 2025年、主要な音楽メディア等のほとんどが軒並み年間ベストアルバムの上位に選んでいたのが、スペイン出身の歌手/プロデューサー・ロザリアによる『LUX』だ。11月というその年の年間ベスト候補に入るにはギリギリのタイミングでのリリースにして話題を一気に掻っ攫っていったわけだが、個人的にも昨年末にかけて特に愛聴した1枚になった。そんな本作を語る視点、分析できるポイントは挙げればキリがないが(それゆえにリスナーを惹きつけるのだろう)、本稿では筆者が特に重要なポイントの一つであると感じた“身体”というテーマに焦点をおいて論じてみようと思う。

ロザリアのキャリアと切っても切れない“身体表現”

 まず本作の特徴の一つに、ロザリア自身による多言語での作詞と歌唱がある。「13の言語」であると説明されているが、1月28日リリースの国内盤を含めた完全版のフィジカル盤では北京語が加わり、正確には14の言語だ。というのも本作は、収録曲の多くが歴史上の女性の聖人からインスパイアされており、その聖人の出身に対応した言語が各曲のリリックに取り入れられている。なお、ロザリア自身はカトリックを背景に持つものの特定の神に縛られていない、と公言しており、キリスト教以外の聖人もここには選ばれている。例えば日本語のリリックが聴ける「Porcelana」は、江戸時代の尼僧である了然から着想を得た楽曲だそうだ。言語学者に意見を仰ぎながら、発音もできるだけ自然に聴こえるよう数年かけてトレーニングして臨んだそうで、筆者に言及できるのは母語の日本語部分のみであるが、確かになかなかナチュラルな発音に聴こえる。

ROSALÍA, Dougie F - Porcelana (Official Lyric Video)

 AIに歌わせることもできる時代に、自らの体内に音声言語をインプットし、自らの口・喉・舌を使って発するその声は、それゆえに強烈な実体性、身体性を伴っていると言えるだろう。“身体”というのは、考えてみれば過去のロザリアの作品でも常に探求されてきたテーマだ。世界的なブレイク作となった『EL MAL QUERER』(2018年)のアルバムジャケットではキリストを暗示する象徴にロザリア自身の姿が収まってヌードの体を神秘的に発光させており、ゴヤの宗教画のオマージュである収録曲のシングルのアートワークでもまた同様である。続く『MOTOMAMI』(2022年)のアートワークでは対照的に女性の強さや反抗的なエネルギーを表現したヘルメット姿ではあるがヌードであることは引き継がれており、いずれにしても自身の生身の体をモチーフにしていることには変わりない。

ロザリア アー写

 そして何よりも彼女が作品に取り込んできたフラメンコという音楽自体がそう。単に舞踊を伴った音楽だから、というだけでなく、フラメンコの舞踊(バイレ)が本来的に、手や足など体の一部を叩きつけて音を出すことで喜怒哀楽を表現していることも、ロザリアの音楽を考える上では重要だろう。筆者自身は専門的な知識を持っているわけではないものの、そもそもフラメンコダンサーの基本技術であるサパテアード(足を打ち鳴らすこと)には足踏みの方法だけで5種類ほどあるし、またリズムの骨格をキープするための手拍子=パルマにもとても集中力を使うのだと聞いたことがある。

 特にこのパルマはロザリアの音楽にも不可欠で、初期の作品から本作に至るまでサウンドを特徴づけるものとして度々登場している。特にラテン音楽に影響を受けミニマルなビートを追求した『MOTOMAMI』では、それまでのフラメンコポップ的な響きとしての用いられ方とは打って変わってその範疇を超え、アーバンなビートトラックの一要素としてリデザインされていたのが画期的であった。そしてこの『MOTOMAMI』の実験を受けた本作『LUX』では、アヴァンエレクトロな硬質なビートやティンパニを強く打ちつける音などと並列に扱われ、よりサウンドと一体化したビートとして昇華されている。つまりロザリアはフラメンコの精神を下敷きに、従来のポップが歌やメロディに託す感情表現をリズムにも宿し、身体とダイレクトに結びついた率直で力強い感情表現のツールとして、ポップミュージックにおけるリズムを再定義している、とも言えるのではないだろうか。

ROSALÍA - Berghain (Official Video) feat. Björk & Yves Tumor

 それではなぜ、彼女は身体(とりわけ女性)にまつわる表現をこれほどまでに強調するのだろう。それを考えるにあたってさらに深掘りしておきたいのが、なぜ本作は女性の聖人たちを着想源に取り上げているのか、ということだ。調べてみると、本作の楽曲に取り上げられている多くの聖人が神や信じるものへの献身を進んで行い、自らも苦しむことで人々の苦しみに身を捧げ、総じて極めて禁欲的であったという逸話が残されている。が、これはあくまで着想のタネということのようで、例えば、苦悶の生涯を送ったペルー生まれの聖人であるリマのローザが着想元となった「Reliquia」が軽やかに羽ばたくような光に満ちたナンバーだったりと、楽曲自体は実際の聖人のイメージとは乖離している。

ROSALÍA - ‘Reliquia’ (LUX) | En directo en LOS40 Music Awards Santander 2025

 ところで、ロザリアはガーターベルトのバックルのタトゥーを脚に入れているが、このガーターベルトが示すのは「“過去の奴隷制”と“決定権のない女性の属性”、そしてドレスは“セクシュアリティの抑圧”とし、女性を取り巻く文化と身体との対立の象徴」であると自身で語っており、また中絶の自由を公に支持する立場も表明している。家父長制を前提とした社会においては「人口の再生産能力は家庭の中でコントロールされるべきであり、女性のセクシュアリティはその支配下に置かれるべきもの」という暗黙の了解が横たわっているが、ロザリアはガーターベルトのタトゥーを通じてその点を指摘、批判しているのである。ロザリアの音楽を考える上では彼女がフェミニズムの文脈と視点からの積極的な発言と表現を厭わないアーティストであることも頭においておくべきなのだ。ちなみに、本作のアートワークでロザリアが纏っている白い衣は「拘束具に見える」という指摘もあるが、よく見るとその下では自分の身体を抱きしめていることが窺える。それゆえこれはどちらかといえば「この身体は他の誰にも自由にさせない、自分だけの神聖なもの」だという表明であるように読み取れると思う。

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