ロザリア、女性聖人たちの声を代弁する真意とは “身体性”の側面から『LUX』に内包された意思を読み解く

ロザリア『LUX』を“身体性”から読み解く

“ポップスの領域を超えた表現”によって取り戻す自由な意思

 さて、ここで話を前出の聖人たちに戻そう。了然は黄檗宗への入門のため自ら顔面を焼いたり、リマのローザは結婚を拒み、自らを神に捧げるために顔をあえて傷つけ苦行に励んだりしたという逸話もあるのだが、そう考えてみると彼女たちはその時代において社会から自明視された女性らしさを拒否し、自らの身体を自分の信じるものに捧げた人たちだ、とも言える。そしてそれは「女性が自分の身体を何にどう使うかを自分自身で決める、その意思を尊重するべきだ」というロザリアのフェミニズムとも、実は多分に重なり合う生き方だったのではないだろうか。

ロザリア アー写

 そう思うと、本作の冒頭「Sexo, Violencia y Llantas」のリリックは最も象徴的だ。西洋近代社会では、人口の再生産を担う家庭の女は自身の自由な性的欲望を持たないことを当然とされる一方で、家庭の「外」におり家父長制に従属しない女性は“売女”として見なされてきたわけだが(マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』を想像してほしい)、〈ひとつめの世界には/セックス、暴力、そしてタイヤ〉〈ふたつめの世界には/きらめき、鳩、そして聖女たち〉(和訳/以下記事内の和訳はすべて国内盤『LUX』収録)と天と地という二分法を持ち出して、その境界がなくなりどちらの世界でも生きられたらいい、と歌うこのナンバーは、「家庭の天使か、あるいは売女か」という家父長制における女性観を破壊し、「女性はバッドアスでありながらも同時に神に祝福される存在であり得る」ということを主張していると言えるだろう。〈あなたのためなら天をも引き裂く 地獄も壊す〉(「La Yugular」/和訳)と宗教的な観点からも異端ギリギリな性的な奔放さや大胆さも見せつつ、〈私は聖女じゃないけど祝福されてる〉(「Reliquia」/和訳)なんていうフレーズを持ってくる点にも、「Sexo, Violencia y Llantas」が示すものに相通じるところがある。

ROSALÍA - Sexo, Violencia y Llantas (Official Lyric Video)

 他方、こうした観念的なリリックに終始することなく彼女自身のリアルな恋愛経験が織り込まれているのも本作の多面的な魅力で、かつてのコラボレーターでもあったラウ・アレハンドロとの婚約解消という経験を受けてか、〈私は報復を求めてるわけじゃない/でも復讐は私を求める〉(「De Madrugá」)、〈彼はパール/信用なんてできない皮肉なやつ〉(「La Perla」)などと言った失恋への失望を直接的に滲ませる人間味も垣間見せる(これらの歌詞がラウ・アレハンドロとの関係を指しているかは不明であるが)。ただそれにしても最後には、〈私は決してあなたの半身にはならない/決してあなたの所有物にはならない/ただ私に属するだけ/そして自由に〉(「Focu ’ranni」/フィジカル盤にのみ収録)、〈私の沈黙はパンチみたいなもの/世界は私のもの〉(「Dios Es Un Stalker」)と、結果として結婚を選ばず、誰の従属下にも置かれない現在の自分を肯定するに至っている。こうしたリリックもまた前述の彼女のフェミニズムからの視点とも繋がってくるわけである。

ROSALÍA - La Perla (Official Video) ft. Yahritza Y Su Esencia

 さて、ロザリアは前述の通り過去作にもそうした視点を盛り込んではいたが、本作では自分の身体という“依代”を通じて女性聖人たちの声を代弁することで、いわばシャーマン的な働きも自身に課しているように思える。そしてそれを結実させるための要素こそ、彼女がカタルーニャ高等音楽院で学んだフラメンコ声楽をベースにしたオペラのような絶唱や、宗教的なクワイア、そしてロンドン交響楽団によるポップスの領域を超えた壮大なオーケストラ演奏だ。「ポップスの領域を超えた」と書いたのは、これがまた単にシンフォニックな装飾として留まっているのではなくオペラや歌劇の劇伴のようなスコアであるように思えるからだ。つまり意図的に、極めて物語的で、神話的に演出されているのである。それはまるで、歴史の中に存在した女性たちの生涯、その苦しみ、煩悶、喜び、自由への希求、渇望が彼女の身体の中に流れ込んで、彼女の身体を通じてこの時代に提示されているかのよう。

ロザリア アー写

 そこまで考えてみてふと、この『LUX』と似た感覚の作品があったことを思い出した。映画『教皇選挙』だ。あの結末、そしてあのラストショットである。結末は伏せておくが、ラストに修道院の中から駆け出してくる3人の修道女たちの軽やかな足取りと笑い声は、ロザリアが本作で描き出す女性像と最も近いところにあると感じたのである。歴史の中で抑圧されてきた女性たちの実存と身体を、自身の自由の元に取り戻すこと。それこそが本作の大きなテーマの一つと言えるのではないだろうか。

ロザリアジャケ写
『LUX』

◾️商品情報
Rosalía|ロザリア
最新アルバム『LUX | ラックス』
配信:https://bio.to/RosaliaLUX

国内盤:2026年1月28日(水)発売
解説・歌詞・対訳付
CD/LP限定音源含む計18曲収録
SICP-6766/¥2,600(税抜)
予約・購入:https://bio.to/RosaliaLUXRE

【トラックリスト】
〈†〉国内盤CD、輸入盤CD、LP限定収録曲

MOV I (第1章)
1. SEXO, VIOLENCIA Y LLANTAS セクソ・ビオレンシア・イ・ジャンタス
2. RELIQUIA レリキア
3. DIVINIZE ディヴィナイズ
4. PORCELANAポルセラーナ
5. MIO CRISTO PIANGE DIAMANTI ミオ・クリスト・ピアンジェ・ディアマンティ

MOV II (第2章)
6. BERGHAIN ベルクハイン
7. LA PERLA ラ・ペルラ
8. MUNDO NUEVO ムンド・ヌエボ
9. DE MADRUGÁ デ・マドルガー

MOV III (第3章)
10. DIOS ES UN STALKER ディオス・エス・ウン・ストーカー
11. LA YUGULAR ラ・ユグラール
12. FOCU 'RANNI フォク・ランニ〈†〉
13. SAUVIGNON BLANC ソーヴィニヨン・ブラン
14. JEANNE ジャンヌ〈†〉

MOV IV(第4章)
15. NOVIA ROBOT ノビア・ロボット〈†〉
16. LA RUMBA DEL PERDÓN ラ・ルンバ・デル・ペルドン
17. MEMÓRIA メモリア
18. MAGNOLIAS マグノリアス

ロザリア ソニーミュージック公式サイト

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