aiko、ラブソングの域さえ超えたダイレクトな感情の共有 ソウルフルな熱狂に満ちた15年半ぶり代々木体育館公演

aiko『Love Like Pop』代々木公演レポ

 ソウルフルな歌声という言葉は至るところで目にするが、ライブ中のaikoはまさにそれを体現していた。魂を歌にするということ、またそれを聴衆の身体に響かせるということ、それが一体どういうことなのか。この日のライブは、そうしたことを改めて気づかせてくれるものだった。

aiko ライブ写真

 15年半ぶりに国立代々木競技場 第一体育館で開催された『Love Like Pop vol.24.9』、2日目となる2025年12月7日の公演。1曲目は「明日の歌」だった。イントロが流れるなか中央のステージに現れたaikoは、足に思い切り力を入れて声を張り上げる。

 すごい迫力だった。愛憎が入り乱れた声。何か生々しいものを目にしたような衝撃を受けたが、こちらが動揺してる暇はない。aikoは言葉を畳み掛ける。なにしろ別れた恋人への思いをぶつけた歌だ。言いたいことがたくさんある。短い時間ですべて伝え切らなければならない。そんなヒリついたムードの中で、黒味がかった赤色のライトがaikoを照らす。

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 そんなスタートでこれからどうなるのかと思えば、曲が変わると空気はガラリと変わりさまざまな表情を見せていく。夢に出てくる昔の恋人を思う「ねがう夜」、華やかなブラスが切ない恋を彩る「荒れた唇は恋を失くす」、時の経過とともに深まる関係性を慈しむ「ぶどうじゅーす」……恋の終わり、残る未練、再び生まれる恋と愛。そうか、恋愛ってちょっとしたことですぐに浮いたり沈んだり感情がコロコロ変わるものだったなと気づく。

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 密接な“二人”だけの曲の数々。しかし不思議なことに、これらがすべてラブソングの域を超えて観客に訴えかけるエンパワーメントとして響いてくる。涙を誘うというよりも何か奮い立たされるような感情にさせる。aikoの力強い歌声、シンガーとしての存在が、そう思わせるのだろう。

 ライブ中のaikoはまるで羽が生えたように自由だ。飛び跳ねて踊ったり、花道を走り回ったり、喋っているかと思えば歌い出したり、アリーナだろうが2階だろうが関係なく観客一人ひとりに話しかけたり。歌声にしても立ち振る舞いにしても何にも縛られていない。そんな姿を目の当たりにしていると、その歌詞に含まれた複雑な感情の機微すべてが、人生における必要な輝かしい出来事の一つとして光る。

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 そして何より、aikoにその羽を与えているのは、島田昌典(Pf)、佐藤達哉(Key)、神谷洵平(Dr)、須長和広(Ba)、浜口高知(Gt)、設楽博臣(Gt)、朝倉真司(Per)、庵原良司(Sax)、小林太(Tp)、斎藤幹雄(Tp)、川原聖仁(Tb)からなる強力なバンドメンバーに違いない。ロマンティックで、パワフルで、それでいて解放された響き。そんな音楽が鳴っていること、またそれを多くの人々と共にしていることに、悦び、歓喜し、体が動く。aikoはずっとそんな様子で、私たちも自然とつられてしまう。そして再びaikoが声を張り上げれば、その曲に含まれた悲哀が、私たちの芯まで一気に届き、何度も強く揺さぶられて熱くなる。悲しみがエネルギーに変わっていくのを感じる。

aiko ライブ写真

 これがaikoのライブだったことを思い出す。ただ楽しいということではない。そこには悲哀の共有がある。それでいてあの歌声には、再び立ち上がらせる訴求力、どんな人や境遇も包摂する力がある。そんな声に導かれて、私たちの冷めた感情に火がつき、興奮させられ、あっという間に沸いてしまう。これがソウルフルと言わず何になるのだろう。

 それにしても「skirt」はすごかった。あの曲は不気味だ。イントロから繰り返されるうねるピアノとギターもそうだし、急にサビでパッと明るくなるところも、その後さらに奇妙な展開になるところも。〈そのスカートは2度と履きません〉に込められた情念そのものである。それを生で聴くのはもっと恐ろしいはずなのだが、繰り返されるあのフレーズに、aikoの生の歌声が重なるとなんだか不思議な高揚感に包まれて、軽いトランス状態になってしまう。そのまま不穏な空気を維持してギアを上げていく演奏と歌唱、どんどんハイになっていく会場の熱気……そしてクライマックスに達した瞬間、観客たちはもう我慢できないといった具合に両手を挙げて歓喜し、熱狂していた。不思議な光景だった。

aiko ライブ写真

 そんな温度が上がり切った会場がすぐに落ち着くわけがない。むしろ終わりに近づくほどに寂しさや焦りからなのかどんどんその熱気は増していく。aikoも、バンドメンバーも、観客も、まだまだハイなモード。アンコールが終わっても終演する気配はない。

aiko ライブ写真

 そのままダブルアンコールへ。現実に帰るにはまだまだ時間が足りないといった具合。悲しみや不安が何か明るいものへと変わりそうなこの時間をもっと体感していたい。この音楽に身を委ねたいーーそういうことを約1万3000人が無意識のなかで共有し合っているように思える。そんなライブだったのだ。

 ダブルアンコールはなんと5曲。「ジェット」、「愛の病」、「beat」、「ドライブモード」……最後は「シアワセ」だった。これもまた“二人”の曲なのだが、今は“aiko”と“観客”という壮大な二人の曲として響きわたる。〈最後にあなたが浮かんだら それが幸せに思える日なのです〉〈これが幸せ 今の幸せ ついて行くわ 眠ろう〉。

aiko ライブ写真

 aikoはその後も名残惜しそうに観客に話しかけ、しばらくして会場を去った。こうして夢の時間は終わった。会場を出れば、現実はいつもと変わらずにすぐそこで待っているのだけれど、それでもあの時間を過ごせたということが、その変わらない現実を過ごすための糧になるように思う。暗い気持ちにさせる何かが起きても明るい方へ超えていけるかもしれないという期待が、あの時間には確かにあったから。きっとあの場にいた観客も今同じ気持ちでいるのではないだろうか。

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