『べらぼう』堂々の完結へ 作曲家 ジョン・グラムが振り返る、蔦屋重三郎らの人生と江戸文化に寄り添い続けた音楽制作秘話

ジョン・グラムが振り返る『べらぼう』

NHK交響楽団の演奏楽曲のタイトルが英語な理由

ジョン・グラム

ーーなるほど。「Heritage」は、サントラ盤のVol.3に収録されている曲であると同時に、ベスト盤の最後を飾る曲にもなっています。この曲は、ジョンさん自身、かなり思い入れのある曲なんですよね?

ジョン:そうですね。この曲は、まさに蔦重が残した数々の“heritage=遺産”をイメージして書いた曲なんです。蔦重が生み出した浮世絵は、それこそボストン美術館であったり、ロンドンであったりパリであったり、世界の至るところで、今も見ることができます。もちろん、蔦重自身は絵師ーーアーティストではありませんが、彼が生み出したものは、“文化的な遺産”として、世界中の至るところで受け継がれている。それは本当にすごいことだと思うんです。そんな蔦重の仕事に敬意を込めて作った6分を超える壮大な曲ーーそれが、この「Heritage」なんです。こちらもNHK交響楽団が見事に演奏してくれているので、是非一曲通して聴いていただきたいと思っています。ちなみに、この「Heritage」や先ほどの「Tanuma’s Downfall」など、英語のタイトルがそのまま曲名になっているものは、すべてNHK交響楽団の演奏によるものとなっています。

ーーあ、そうなんですね。

ジョン:はい。なぜ、それらの曲は英語タイトルのままなのかも、実は理由があって……。『麒麟がくる』のときに実感しましたが、NHK交響楽団は本当に素晴らしいオーケストラなんです。演奏技術の部分はもちろん、オーケストラとしての統一感が、本当に素晴らしい。なので、NHK交響楽団に演奏していただけるのなら、どんなに難しい曲を書いても大丈夫という安心感が、今回は最初からありました。実際、『べらぼう』のために書いた曲は、いずれも相当複雑な曲になっていて、オーケストラで演奏するのが非常に難しいのですが、NHK交響楽団のみなさんは、それを見事に演奏してくださいました。それこそ、世界のどこで演奏していただいても、人々を魅了するような……それもあって、それらの曲は、あえて英語のタイトルにしたんです。もし海外で演奏する機会があったとき、「蔦重の遺産」というタイトルでは、少しわかりにくいところがありますよね。「Heritage」のように最初から英語のタイトルにしておけば、世界中の人々に楽しんでいただけるのではないか。それで英語タイトルのままにしたんです。

ーーなるほど。たとえドラマを観ていなくても、それらの楽曲は、オーケストラの楽曲として十分聴き応えがあるものになっているわけですね。では最後に、改めて『べらぼう』視聴者の方々に何かメッセージを。

ジョン:最初に本作の台本を何話か読ませていただいたとき、数々の浮世絵の名作を生み出した人物の話というのはわかっていたのですが、それがどのような話になっていくのかは、まったく想像できませんでした。

ーー視聴者と同じですね(笑)。

ジョン:そうですね(笑)。それは、ひとりの人物の単なるサクセスストーリーではなく、たくさんの人々の濃密な人間ドラマであり、大きく社会が変わっていくときの話でありーーその中で、人はいかにして“自由”を求めていくのか。そういう話だったように思うんです。それこそ、個人レベルでも、社会レベルでも、いろいろなものが“トランスフォーメーション”していくような話と言いますか。しかもそれを、ごく自然な形として描いているところが、本作の素晴らしいところだと思うんです。そのような作品に音楽をつけるためには、私自身も「トランスフォーメーション」していく必要がありました。蔦重をはじめとする登場人物たちが変わり続けていくように、私自身も変わり続けながら、音楽を書いていったんです。似たような曲を書くことは、一切ありませんでした。そういう意味で、私自身も作曲家として、変化と成長を感じられるような作品になったと思いますし、そういった作品に関わることができて、本当に光栄に思っています。

ーーありがとうございます。ドラマの最終回を、今から楽しみにしています。

ジョン:それは、私も同じです(笑)。私は毎回、英語の字幕をつけていただいたものを観ているので、みなさんよりも少し遅いタイミングで観ることになると思いますが、私もーーそして私の家族も、みなさんと同じように、最終回を心待ちにしています。

■リリース情報
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』オリジナル・サウンドトラック The Best
2025年12月24日(水)発売
詳細:https://lit.link/berabousoundtrackbest

大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』オリジナル・サウンドトラック 完全盤
2026年1月30日(水)発売
詳細:https://lit.link/berabousoundtrackkanzenban

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