森口博子「私にとって“歌=生きる”」 恵まれ、守られた40年――アルバム『Your Flower ~歌の花束を~』

森口博子、1万字超えで語る新アルバム

 森口博子が、40周年アニバーサリーアルバム『Your Flower ~歌の花束を~』をリリースした。メモリアルな作品に相応しく、売野雅勇、ニール・セダカ、広瀬香美といった森口の音楽活動を彩った巨匠や盟友が楽曲を提供しているほか、前山田健一、畑亜貴らとの化学反応まで楽しめる贅沢な一枚に仕上がっている。

 リアルサウンドでは、本作に込められた想いの深さに迫るべく森口にインタビュー。各楽曲の制作秘話、キャリアを重ねたからこそ生まれる感情、変わらない音楽への愛情まで、時折涙を浮かべながら、熱く、そして誠実に語ってくれた。(編集部)

「歌うことを根本的に手放すっていう人生はこの先もない」

――あらためて、素晴らしいアルバムが完成しましたね。

森口博子(以下、森口):ありがとうございます! 豪華でカロリー高いですよね(笑)。

――高カロリーですし、あらゆるタイプの楽曲が入っていて。

森口:そうなんです。『ガンダム』(『機動戦士ガンダム』シリーズ)ファンの方にも、私のオリジナルのJ-POPファンの方にも、バラエティ番組で好きになってくださった方にも、もう全方位に刺さる、いい意味で情緒が忙しい、豊かなアルバムが完成しました。本当に豪華な作家さんやアーティストの方々にとても丁寧に作っていただいた、名曲揃いなんですね。今回は過去に楽曲を提供してくださった皆さんに再び集まっていただいて、今の私に合う大人の表現で新曲を書いていただきたいという思いがありました。売野雅勇さん、岸谷香さん、木根尚登さん(TM NETWORK)、西村由紀江さん、西脇唯さん、ニール・セダカさん、畑亜貴さん、平松愛理さん、広瀬香美さん、前山田健一さんが愛情いっぱいに参加してくださいました。

――今回のアルバムの初回限定盤には、そのなかから珠玉の16曲を収めたベストアルバムも同梱されますからね。

森口:はい。ファンのみんなへの感謝の気持ちも込めました。私のファンの方々って、懐かしがるだけではなくて、常に新しいものも求めてくれるんですよ。そんな皆さんへの感謝の「ありがとう」と、これまでご一緒してきた作家の皆さんたちとの「再び」という、その熱量をお届けできればと思いました。

――ちなみに、デビュー40周年を迎えたことに関しては、どんな思いが最初に出てきますか?

森口:それはもう「恵まれてる」と「守られてる」ですね。世の中にはこれだけたくさんの歌手の方がいるなかで、40年も歌い続けてこられて……しかも80年代にアイドルとしてデビューした私が、50代になっても新作を発表させていただき、令和に毎年リリースしたアルバム8枚全てオリコントップ10入りして、奇跡だと思うんですよね。“夢には締め切りがない”と実感しました。だからやっぱりファンの皆さん、スタッフの皆さんに支えていただき、色んな方に守られているなと思いますし、幸せなことだなってあらためて感じます。

――ただ、単純に「恵まれてる」だけでは40年間活動を続けるのは難しいと思います。自分自身にこういう部分があったから続けてこられたんだろうな、と感じることはありますか?

森口:やっぱり幼少期の環境にあるなと思っていて。私は小学校2年から母子家庭で、母が女手ひとつで4人姉妹を育ててくれたなかで、どんな時も歌さえ歌っていたら幸せだったんですよね。4歳の頃から「歌手になる」という気持ちが強くあった。これはもう与えていただいたものだなと思っていて。

――「与えていただいた」というのは、神様からの贈り物的な?

森口:そうです、ギフトですよね。「歌手になる」と思った時からずっと歌っているんです。その情熱の深さ、モチベーションの長さと、それをちゃんと汲み取ってくれるスタッフの皆さん、ファンの皆さんに出会えたのは本当に幸運だと思います。

――それで言うと、この40年の間に、歌に対する情熱が途絶えそうになった瞬間はなかったんですか?

森口:ないです。もちろん体調や調子が悪い時はありますし、楽しいだけじゃなくて辛いなと思う時はありますけど、歌うことを根本的に手放すっていう人生はこの先もないですね。私にとって“歌=生きる”なので。

――その思いの強さが、ファンや周りのスタッフを突き動かしているんでしょうね。

森口:でも、私も突き動かしてもらってるんですよ。ライブでステージに立って、エネルギーを交換し合うと、毎回「この場所のために生まれてきた」と思えるんです。

40周年のタイミングで神が与えた試練

――今回のアルバム『Your Flower ~歌の花束を~』には、ご縁のある作家やアーティストの方が再び参加された新曲を多数収録。アルバム1曲目にしてリード曲「ETERNAL DAYS ~あなたがいてよかった~」は、森口さんの代表曲「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」(1991年)を手がけた西脇唯さんが作詞曲しています。

森口:西脇さんには、1991年の『紅白』(NHK総合『NHK紅白歌合戦』)初出場楽曲で、初めてオリコンシングルチャートのトップ10に入った「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」のアンサーソングをお願いしました。この曲は、当時一度はリストラ宣告を事務所から受けた歌手としての私を救ってくれた曲であり、たくさんの方との巡り合いを作ってくれた曲なので。『機動戦士ガンダムF91』の主題歌ということで、『ガンダム』ファンの方はもちろん、作品を観たことのない方からも、「すごく素敵な曲ですね」と言っていただけることが多いんですね。そんな私の歌手活動を象徴する楽曲のアンサーソングが誕生すれば、さらに私たちの40年の歴史を感じられるかなと思って。

森口博子「ETERNAL DAYS ~あなたがいてよかった~」MV(40周年記念アルバム「Your Flower ~歌の花束を~」収録)

――それで西脇さんにオファーしたと。

森口:西脇さんからはお手紙もいただいて。そこには「この宇宙は、星が生まれては消えていく繰り返しのなかで、ファンの皆さんもスタッフの皆さんも、みんなそれぞれ役割や使命があり、傷つくことが日々たくさんあったとしても、それでも頑張って生きている。その中で森口さんは40年、歌を続けていて、なんて美しい光景なんだろう」といったことが書かれていたんです。

――素敵なお言葉ですね。

森口:泣けますよね。そして『F91』の主人公、シーブックとセシリーのその後という意味合いも込められていて。彼らの人生も『F91』で止まってるわけではなくて、ずっと続いている。それと同じように私たちの日常も、これからも“ETERNAL DAYS”だから、という思いを込めてくださったんです。

――『F91』の世界観の続きでもあり、森口さんの歩んできた軌跡の続きでもあり、その両方が重なった曲になっているんですね。

森口:ものすごく重なっています。歌詞には〈「生きることは戦いだけど/それはなんて美しい」〉という泣けるフレーズもあって。頑張っている人ほど、大変な思いをしてる人ほど心に響くと思いますし、そんなことを言われたら、「もう頑張るしかない!」って思うじゃないですか。私も、この楽曲を制作していた時、ちょうど足を骨折していて。

――5月19日のライブで負傷なさったとか。

森口:はい。なので車椅子と松葉杖の生活の最中のレコーディングだったんです。松葉杖を抱えながらマイクの前で歌う経験は人生で初めてだったので、本当に「何だろう、この試練は……?」と思いましたし、大切な40周年のタイミングで神様は私に何を伝えようとしているんだろうと思って、ずっと自問自答でした。

――ここにきて、まだ戦い続けなくてはいけないのかと。

森口:そう! ブレスするだけで痛いし、全く(身体を)動かせない状態で歌っていたので、この歌の〈生きることは戦いだけど〉という言葉が、自分の状況に重なりすぎて。それと西脇さんからの「森口さんはずっと歌い続けていて、なんて美しい光景なんだろう」というメッセージが重なって。もう号泣でした。「40年頑張ってきて、そのレコーディングがなんで松葉杖なんだろう?」って。でも、それにもちゃんとメッセージがあるんですよね。

――ただ、そういったことを感じさせない、非常に豊かな響きのある歌声でした。『F91』の続きの物語という意味では、語り部視点といいますか、どこか俯瞰して歌っている印象もあって。

森口:そうなんです! もちろん自分の感情ともシンクロするんですけど、この曲は『ガンダム』作品のアンサーソングでもあるので、ちょっとストーリーテラー的でもあるし、やっぱり『ガンダム』ソングはいつも俯瞰でないと歌えないというか、そうしないと曲に持っていかれてしまうんです。

――なるほど。歌詞の最後のブロックに〈ほほえみは光る風の中〉というフレーズが出てくるのもグッときました。「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」のサブタイトルがそのまま入っていて。

森口:私も歌詞を見た時に「こうきたか、ニクい!」と思いました(笑)。元歌の歌詞には一言も出てこなかったのに、アンサーソングの締めの部分でこの言葉が使われるって、この曲の歴史を知っているファンの皆さんにとっては、きっと泣けるフレーズになるだろうな、と。実は、その後に〈あなたがいてよかった〉という言葉が2回歌われるのにもちゃんと意味があって。

――お、そうなんですか?

森口:私、西脇さんに「同じ言葉が2回繰り返されているので、片方をほかの言葉に変えるのはいかがでしょうか?」とご相談したんですね。そうしたら、「この〈あなた〉には意味があって」と。1回目の〈あなたがいてよかった〉は「ETERNAL WIND」という楽曲に対して、2回目の〈あなたがいてよかった〉は、ここまで支えてくださったファンの皆さんに向けたもの、と明かしてくださったんです。それを聞いて感動して「ああ、もう絶対にこのままでいいです! 2回繰り返します!」と即答でした。

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